三浦綾子作品で使われているオノマトペ“にょろにょろ”

難波真実

印象に残ったオノマトペ語句の14語目です。

かいじゅうの目から、ニョロニョロニョロって、ヘビがでてきたのよ」

三浦綾子『死の彼方までも』[三]

この語句は、今のところ(収録している18作品で)、『死の彼方までも』だけで使われています。

『死の彼方までも』は初期の短編小説です。
三浦綾子さんの短編作品は、だいたいにおいてハッピーエンドではないものが多いのですが、
これもまた、その一つです。

このセリフは、5歳の七重のもので、父・俊之、母・順子と暮らしている女の子です。
ただ、生みの親がいて、利加という女がその母。
ある日、その利加から自宅に電話がかかってきて……というところからこの物語は始まります。
七重と俊之はよく話をするのですが、この場面も、七重が父親に話しをしているところで、その中に含まれる回想です。七重がよくテレビの話をしているので、読者にそれを伝える文章の1つです。

三浦綾子さんの作品でも、回想はしばしば使われます。
突如回想が始まることも多く、その場面の補足説明や背景を知らせることに役立っています。
ここでは、5歳の娘が父親に一所懸命話しをしている様子が描かれているので、そこにオノマトペが使われているのはリアル感があり、納得ですね。
まあ、怪獣の目から蛇が出てくるのは、あまり気持ちいいものではありませんが。

この時期、三浦綾子さんは、自伝小説以外はホームドラマをたくさん描いています。
『氷点』『積木の箱』は設定が特異でしたが、『死の彼方までも』も『裁きの家』も『羽音』も、設定そのものはそれほど特異なものではなく、いわば“普通”の、どこにでもありそうな家庭、その中に潜む欲望と愛憎を描いています。

“ザ・昼ドラ”という感じの物語で、実際、この作品は3度もテレビドラマ化されています。
お読みになるとお分かりかと思いますが、テレビドラマにぴったりの作品です。
2度目のドラマでは、北海道にもゆかりのある、和泉雅子さんが出演してらっしゃいました。
北極探検に成功された女優として有名ですね。彼女の別荘が士別市(しべつ)にあります。
(「羊と雲の丘」から見えます)

この物語でよく使われるのが電話。
昭和の小説ですから、生活に欠かせない大きな要素ですよね。
令和の今では、自宅の電話よりも個人の携帯のほうが存在感が大きいですが、
1960年代後半というのは、通信手段としての電話は、いわゆる固定電話オンリーですね。
ベルが鳴った時、それを誰がとるか、ということだけでも物語の起伏を作ることができました。
『氷点』では、村井の電話を啓造が、松崎由香子の電話を啓造がとったときにさざ波が起こりましたね。
それは、電話はだれがとってもいいものの、その時代の暗黙の了解として、主婦がとることが多かった、ということが前提となっているので、それ以外の人が電話をとるときに出来事が起こる、という場面が作りやすかったわけです。

この『死の彼方までも』でも、おませさんの七重が電話に出るようになり、そこから展開が急激に膨らんでいきます。
この物語では、電話の向こうから聞こえてくる利加の声が耳にまとわりついてくるようで、なかなかにゾッとしますよ。
順子のいらだちと恐怖を、ぜひ読んで体験してみてください。
では、また。

難波真実

X(Twitter)@MasachikaNamba
mixi2 コミュニティ「#綾活」
Bluesky masachikanamba
三浦綾子記念文学館公式LINEアカウント@hyouten
三浦綾子記念文学館(公式)オープンチャット

コメント

タイトルとURLをコピーしました