私は、ことばが好きで、物語が好きで、本が好きで。
特にオノマトペ(擬音語や擬態語などの総称)が好きなのです。
オノマトペは、品詞でいうと副詞に分類されます。おもに動きや有りようを修飾する働きをする副詞ですが、オノマトペはその中でも、声に出したときの響きがいいですよね。これが大好きなんです。作品世界にアクセントが与えられ、彩りまで添えられるような、不思議な存在。うっとりしてしまいます。
オノマトペといえば、宮沢賢治(1896-1933)が有名ですが、三浦綾子もまた、オノマトペをふんだんに使った作家でした(と、私は思っています)。
なので、三浦綾子記念文学館公式サイトでは「オノマトペで楽しむ三浦綾子」なんていうカテゴリーもあったりするわけですが、#綾活はあくまでも趣味活動ですので、私なりの構成でご紹介してまいります。
というわけで、三浦綾子の物語作品で使われるオノマトペを抜き出していこうと思います。
長い長い旅になると思いますので、辛抱強くおつきあいください。
難波真実 2023.10.10 更新
(三浦綾子記念文学館 使用許諾番号 4-1)
引用元:「三浦綾子電子全集」小学館(2012-2013)
参考資料:『日本語オノマトペ辞典』小学館 2007年(2020年第6刷)
『国語辞典』[第十一版]旺文社2013年(2022年)
- 収録作品
- 齷齪(あくせく)
- あっさり
- いそいそ
- いらいら
- うきうき
- うっかり
- うっすら
- うとうと
- うやむや
- うようよ
- うろうろ
- えーん
- おっとり
- おどおど
- おろおろ
- かーっ
- かーん
- がーん
- がくがく
- がたがた
- がたぴし
- がちゃがちゃ
- がちゃり
- がちゃん
- かちり
- かっ
- がっかり
- かっきり
- がっくり
- がっしり
- がっちり
- がぶり
- がらがら
- からり
- がらり
- きー
- ぎー
- きーん
- ぎくり
- きちん
- きっ
- ぎっしり
- きっちり
- きっぱり
- きびきび
- ぎゃーぎゃー
- きゅっ
- きゅっきゅっ
- ぎょろり
- きらきら
- きらり
- ぎりぎり
- きりり
- ぎりり
- ぐい
- くくっ
- くすくす
- ぐずぐず
- ぐっ
- くっきり
- ぐっすり
- ぐったり
- くどくど
- くよくよ
- ぐらぐら
- くるくる
- ぐるぐる
- くるり
- ぐるり
- ぐるりぐるり
- ぐんぐん
- ごーごー
- ごーっ
- こそこそ
- ごちゃごちゃ
- こっくり
- こっそり
- ごっそり
- ごとごと
- ごろごろ
- ごろり
- ごわごわ
- さーっ
- ざーっ
- さっ
- ざっ
- さっさ
- さっぱり
- さばさば
- さやさや
- さらさら
- さらり
- ざわざわ
- じくじく
- じっ
- しっかり
- しっとり
- じっとり
- じとじと
- しどろもどろ
- しみじみ
- じめじめ
- しゃん
- じゃんじゃん
- しょんぼり
- じりじり
- じろじろ
- じろり
- じわじわ
- しん
- しんみり
- すーっ
- ずーっ
- ずかずか
- ずしり
- ずたずた
- すっ
- ずっ
- すっかり
- すっく
- すっぽり
- すぱっ
- ずばり
- ずばりずばり
- すべすべ
- すやすや
- すらり
- ずらり
- するする
- ずるずる
- するり
- すれすれ
- そっ
- ぞっ
- そっくり
- そろそろ
- ぞろぞろ
- そわそわ
- だだだだ
- たっぷり
- だらだら
- だらり
- 淡淡(たんたん)
- ちかり
- ちっ
- ちやほや
- ちゃん
- ちょい
- ちょん
- ちょこちょこ
- ちらちら
- ちらっ
- ちらり
- ちらりちらり
- つい
- つー
- つくづく
- つるつる
- つるり
- つやつや
- てきぱき
- てっきり
- どきっ
- どきどき
- どぎまぎ
- どきん
- とげとげ
- どっ
- どっか
- どっかり
- とぼとぼ
- どん
- どんどん
- なよなよ
- にこっ
- にこにこ
- にこり
- にっこり
- にやっ
- にやにや
- にやり
- ぬけぬけ
- ぬっ
- のっそり
- のびのび
- のろのろ
- のんびり
- ぱー
- ばーっ
- はきはき
- ばたばた
- ぱたり
- ばたん
- ぱちぱち
- はっ
- ぱっ
- はっきり
- ばったり
- ぱったり
- ぱっちり
- ぱっぱ
- はらはら
- ばらばら
- ぱらぱら
- ぱらり
- ばりばり
- ぱん
- びくっ
- ぴくっ
- ひくひく
- びくり
- ぴくり
- ぴしっ
- ぴしり
- ひそひそ
- ひた
- ぴたり
- びっくり
- ひっそり
- ぴったり
- ひやり
- ひゅーん
- ひょい
- ぴょこん
- ひょっ
- ひょっこり
- ひょろひょろ
- ひょろり
- ひらり
- ぴりぴり
- ぴん
- ぴんしゃん
- ふい
- ふがふが
- ふさふさ
- ぶすり
- ふっ
- ふっくら
- ぶつぶつ
- ふらふら
- ぶらぶら
- ふらり
- ふわり
- ふわりふわり
- ふん
- ふんわり
- ぺこぺこ
- へたへた
- ぺたぺた
- ぺたり
- ぺちゃくちゃ
- べったり
- 茫茫(ぼうぼう)
- ぽかん
- ぽたぽた
- ほっ
- ぼっ
- ぽっ
- ぽっかり
- ほっそり
- ぽつり
- ほつりほつり
- ぽつんぽつん
- ぼりぼり
- ぽりぽり
- ぽん
- ぽんぽん
- ぼんやり
- まじまじ
- みしみし
- みるみる
- むしゃむしゃ
- むすっ
- むっ
- むっくり
- むっちり
- むっつり
- むらむら
- めそめそ
- めちゃくちゃ
- めっきり
- めらめら
- もそもそ
- もやっ
- もりもり
- やんわり
- ゆっくり
- ゆったり
- ゆらゆら
- ゆらり
- よちよち
- よろよろ
- わーっ
- わっ
収録作品
・『氷点』[とびら]の章を作業中
齷齪(あくせく)
・(いったい、何のためにアクセクとおれは働いているのだろう)『氷点』[雨のあと]より
あっさり
・徹はあっさりといった。『氷点』[台風]より
・あっさりとした別れである。『氷点』[街角]より
いそいそ
・(何も知らずに、わたしはこうして、毎日いそいそと迎えに出ていたのか!)『氷点』[橋]より
いらいら
・啓造はいらいらと一人思い惑っていた。『氷点』[敵]より
・家に入ると啓造が、いらいらとした表情で食卓の前にあぐらをかいていた。『氷点』[誘拐]より
・村井のことをきいて、花火をやめてしまった夏枝を、啓造はいらいらとしたまなざしでみつめていた。『氷点』[線香花火]より
・啓造は、いつ夏枝がくるかといらいらしながら、じっとタンスの前に立っていた。『氷点』[どろぐつ]より
・啓造は、少しいらいらしてきた。『氷点』[行くえ]より
・そのことが、夏枝をいらいらさせる。『氷点』[冬の日]より
・「きっと神経がいらいらしてるんだろう。……」『氷点』[淵]より
・夏枝はいらいらとしていった。『氷点』[ピアノ]より
うきうき
・妙にうきうきと、赤ん坊をだいたり、ほおをよせたりする夏枝に、……『氷点』[九月の風]より
・その日記帳を何年ぶりかに手をとって開いてみたのは、今の夏枝の心が、何となくうきうきと心たのしくなっていたせいであったろうか。『氷点』[激流]より
・(おにいさんからハガキが来た時は、〈こちらの都合もきかずに、いやな人ねえ〉と気重そうだったのに、何と今日は機嫌よく、うきうきとしているおかあさんだろう)『氷点』[千島から松]より
・うきうきした声である。『氷点』[赤い花]より
うっかり
・「……さっき夏枝さんに、うっかりアウスロイムング(人工流産)のことを話してしまってね。……」『氷点』[チョコレート]より
・「……お前のようなクソ真面目な男には、うっかりした口もきけん」『氷点』[チョコレート]より
・新婚時代にうっかりキスマークをつけてから、啓造は用心ぶかくなっていた。『氷点』[雨のあと]より
・と、うっかり口に出かかった。『氷点』[橋]より
・(武田さんがうっかりして忘れてしまったか、どこかに失くしてしまったことにしてもいい)『氷点』[白い服]より
・しかしどの言葉も、うっかり外に吐きだすことのできない言葉であった。『氷点』[歩調]より
・つい、うっかりと、かわいいと思う日もあった。『氷点』[行くえ]より
・うっかりすると方角を失いかける。『氷点』[大吹雪]より
・「……わたしはついうっかりして、女の子が大学に行くなんて考えてもみなかったものですからね」『氷点』[千島から松]より
うっすら
・夏枝はうっすらと目に涙をうかべた。『氷点』[線香花火]より
・鉢の蘭のみどりの葉に、ほこりがうっすらたまっているということも、癇性の夏枝にはないことであった。『氷点』[歩調]より
うとうと
・床に入ると啓造は、何となくつかれて、いつもより早くうとうととした。『氷点』[ゆらぎ]より
・うとうとしたかと思うと、部屋のふすまが静かに開いた。『氷点』[ゆらぎ]より
・横になるとついうとうととなり、やがてすっかり寝入ってしまった。『氷点』[大吹雪]より
うやむや
・いい出したことが、うやむやになるのがいやだった。『氷点』[階段]より
うようよ
・「……昔はあの石狩川に鮭がうようよのぼったんだってさ」『氷点』[川]より
うろうろ
・「……正木次郎をどうしても必要だといってくれる世界はどこにもないのに、うろうろ生きていくのは恥辱だ」『氷点』[赤い花]より
・陽子は手紙を持って、うろうろと立ちあがった。『氷点』[ピアノ]より
えーん
・「……エーンエーンって」『氷点』[雪虫]より
おっとり
・「その方がおっとりしていて、わたしは好きだね」『氷点』[みずうみ]より
おどおど
・夏枝はおどおどして啓造を見た。『氷点』[誘拐]より
・啓造も夏枝も、その徹をはらはらしながら見守るばかりで、特に夏枝は徹を恐れておどおどした。『氷点』[淵]より
おろおろ
・吹雪の日、夏枝が心配して、おろおろしながら陽子を待ちかねて抱きしめてくれたことがうれしかった。『氷点』[淵]より
・「……わたくしは少し困難なことにあいますと、すぐにおろおろしたり、あわてたり、べそをかいたりいたします。……」『氷点』[答辞]より
・(……陽子はきっと青くなり、おろおろとして泣き出すことだろう。……)『氷点』[答辞]より
かーっ
・「……おれは女を見ると頭がカーッとすることがあるが、お前はどうもそんなところが見えないな。……」『氷点』[線香花火]より
かーん
・「……カーンカーンといい音ですがね。……」『氷点』[雪けむり]より
がーん
・突然ガーンという音と同時に船は遂にてんぷくした。『氷点』[台風]より
がくがく
・足がばらばらになったかと思うほどガクガクした。『氷点』[ルリ子の死]より
がたがた
・ガラス戸がガタガタと音を立てはじめた。『氷点』[雨のあと]より
・ガラス戸が激しくガタガタと風に鳴った。『氷点』[雨のあと]より
・ガラス戸が止む間もなくガタガタと鳴っていた。『氷点』[とびら]より
がたぴし
・陽子はぐったりと疲れて、たてつけの悪い戸をガタピシさせていると、牛乳屋の主人が中から戸を開けた。『氷点』[大吹雪]より
がちゃがちゃ
・まだ人通りのない街を、ガチャガチャとビンの音をさせながら、陽子はペダルを踏む。『氷点』[大吹雪]より
がちゃり
・取手が、ガチャリと音を立てた。『氷点』[敵]より
・「……院長は、若い女が思いきって電話をかけたのに、よくもまあガチャリと電話を切ったもんですね。……」『氷点』[行くえ]より
がちゃん
・「……すると院長先生は、ばかなことをいうなと、ガチャンと電話を切った。……」『氷点』[行くえ]より
かちり
・カチリと音のしそうな視線であった。『氷点』[敵]より
かっ
・ねむるまい、ねむるまいと目をカッと見開いた時、啓造の傍を懐中電灯が動いた。『氷点』[台風]より
がっかり
・徹はにわかに昨日のひざが痛むような、がっかりとした思いであった。『氷点』[白い服]より
・「わたしはいいんですけれど、旦那さんが、がっかりですよねえ」『氷点』[歩調]より
・北原ではなかったと思うと、幾分がっかりした。『氷点』[ピアノ]より
かっきり
・丸顔の親しみやすい顔立ちで、かっきりと彫ったような二重まぶたの目がいきいきとしている。『氷点』[灯影]より
がっくり
・啓造は、何となくがっくりと疲れて、畳の上に横になった。『氷点』[九月の風]より
・その瞬間、夏枝がガックリと手をついた。『氷点』[淵]より
がっしり
・美しいいちいの生垣をめぐらして低い門を構え、赤いトタン屋根の二階建の洋館と、青いトタン屋根の平家からなるがっしりとした家であった。『氷点』[誘拐]より
・二メートルほどの高さのガッシリとした御影石の門柱に、交番の看板のように大きな板が、〈辻口病院〉と、あせた墨の色を見せてさがっている。『氷点』[西日]より
・通りから一間ほど入った、がっしりした木造の二階建であった。『氷点』[橋]より
・その暗くがっしりとした岩は、花火と対照的な美しさだった。『氷点』[川]より
・北原のがっしりとした肩や、はちきれそうにもりあがったもものあたりを夏枝はながめた。『氷点』[とびら]より
がっちり
・しかしがっちりした体格に似合わずに何か力のぬけたさびしい感じに写っている。『氷点』[灯影]より
がぶり
・「お前ときたら、昔からガブリッとくらいつくうまさを知らねえ。……」『氷点』[チョコレート]より
がらがら
・徹という子供はいても、ちょっとつつくとガラガラと音をたてて崩れさるような、もろい家庭しか築いていない。『氷点』[淵]より
からり
・二人の手紙はからりとしていた。『氷点』[写真]より
がらり
・ガラリとあけてはいってもよいのだと思いながらも、啓造はなぜか素直にはいっていく気にはなれなかった。『氷点』[どろぐつ]より
・啓造は立ちあがると、寝室のふすまをがらりとあけた。『氷点』[どろぐつ]より
・ふいにガラリとふすまがあいた。『氷点』[淵]より
きー
・「キイッ!」『氷点』[白い服]より
ぎー
・「ギイッ」『氷点』[台風]より
きーん
・キーンと切れたピアノ線のあの不気味な金属性の音の印象が、直ちにルリ子の死を思いおこさせた。『氷点』[激流]より
ぎくり
・夏枝はギクリとして後を振り向いた。『氷点』[誘拐]より
・不安な思いで妻を見なおした啓造はぎくりとした。『氷点』[ルリ子の死]より
・と、ギクリとした。『氷点』[灯影]より
・夏枝はギクリとしたように目を見ひらいた。『氷点』[線香花火]より
・徹はギクリとして耳をそばだてた。『氷点』[白い服]より
・啓造は思わずギクリとした。『氷点』[台風]より
・と、啓造は平然といったが、内心、夏枝の勘の鋭さにギクリとした。『氷点』[千島から松]より
・夏枝が玄関に迎えに出た表情に、啓造はギクリとした。『氷点』[ピアノ]より
きちん
・啓造がキチンと両手をつくと、辰子は黒白のたてじまの単衣お召しのたもとから、煙草を出して火をつけながら、……『氷点』[灯影]より
・黒いハイヒールがきちんとそろえてある。『氷点』[ゆらぎ]より
・日記帳がペン皿の横にきちんとおかれているのも、結婚以来、いまに至るまで変らない。『氷点』[激流]より
・「足ぐらい、きちんと拭いて上ってよ」『氷点』[橋]より
・内弟子が二人電蓄のそばにきちんと正座して、辰子の動きにつれて首を動かしていた。『氷点』[橋]より
・上の段には、夜具がきちんとたたんで重ねてありました。『氷点』[行くえ]より
・夏枝はいつも家の中をきちんと整頓して、廊下も滑って転びそうになるほど、念を入れてみがいてある。『氷点』[千島から松]より
きっ
・「……きっとルリ子は村井さんに連れられて行ったのですわ」『氷点』[誘拐]より
・「そうですか、それならよろしいんですけれど、こんなに探してもいなければ、きっとそうかも知れませんわね。……」『氷点』[誘拐]より
・「村井さんからですわ、きっと」『氷点』[誘拐]より
・口に出すと、その言葉には妙に力がこもっていて、いつかきっと、自分は啓造をうらぎるにちがいないと思わずにはいられなかった。『氷点』[激流]より
・「……きっと」『氷点』[激流]より
・「……きっとおかあさん、夢をみていたのよ」『氷点』[激流]より
・「カネがあるのに、ケチンボだって、きっとみんなにいわれるよ」『氷点』[白い服]より
・「……辻口病院の女の子は、おとうさんにも、おかあさんにも似ていないから、きっともらい子だって」『氷点』[白い服]より
・(……武田さんの店員さんが忘れたなんて、おかあさんはきっと嘘をいっていたんだ)『氷点』[白い服]より
・昨日は旭川のお祭りだから、一年生の陽子はきっと、お祭りだと思ったのだろう。『氷点』[よそおい]より
・自分の美しさに、村井はきっと驚くにちがいないと想像するだけで、心がはずんだ。『氷点』[よそおい]より
・「……きっと待っていらっしゃるでしょうね」『氷点』[台風]より
・「でも、きっとお乗りにならないわ」『氷点』[台風]より
・「……きっと乗ったよ」『氷点』[台風]より
・「……きっと」『氷点』[雪虫]より
・「……きっと」『氷点』[行くえ]より
・「……きっと死にますよ。……」『氷点』[行くえ]より
・(あしたも、きっとくれないわ。……)『氷点』[冬の日]より
・「きっと神経がいらいらしてるんだろう。……」『氷点』[淵]より
・真正面から啓造をきっとみつめる夏枝のほおがけいれんした。『氷点』[淵]より
・その時、夏枝がきっと啓造を見あげた。『氷点』[淵]より
・このことを陽子が知ったなら、きっとゆるしてくれるだろうと、徹は思った。『氷点』[答辞]より
・「……徹さんもきっと喜びますわ」『氷点』[答辞]より
・だから、きっとその返事であろうと思って受けとった封筒の中に、自分自身の手紙を見いだした時、北原はあまりのことに呆然とした。『氷点』[雪の香り]より
・物欲に執着のない辰子は、きっと陽子に財産をゆずるにちがいない。『氷点』[階段]より
・そのことが、きっと陽子の中で何らかの形で成長していると徹は期待していた。『氷点』[ピアノ]より
ぎっしり
・下には、本がギッシリつまっていましてね。『氷点』[行くえ]より
・先ほどからいった言葉が、そのままギッシリと胸につまったような、重い気分に沈んでしまった。『氷点』[淵]より
きっちり
・しかし三百八十円きっちりしかやらなかった。『氷点』[冬の日]より
きっぱり
・きっぱりとした啓造の言葉に、ようやく高木はほっとした顔で、……『氷点』[回転椅子]より
・陽子がきっぱりといった。『氷点』[白い服]より
・きっぱりとした語調だった。『氷点』[雪の香り]より
きびきび
・と、次子が案ずるほど、夏枝はきびきびとよく働いた。『氷点』[線香花火]より
・雑巾がけをするときの、きびきびとした身のこなしも好きだった。『氷点』[橋]より
ぎゃーぎゃー
・ギャアギャア泣かれても、どうしようもないわけですよ。『氷点』[灯影]より
きゅっ
・同時に、胸の中にキュッと押しこんで来る、ふしぎに快い感情があった。『氷点』[敵]より
・「足くびがキュッとしまってね。……」『氷点』[どろぐつ]より
・陽子は唇をきゅっと結んで両手をあげようとしたが、左手がうまくあがらなかった。『氷点』[つぶて]より
・白いバーバリー・コートのベルトをきゅっと締め、黒いソフトをかぶった村井を、夏枝はおどろいてながめていた。『氷点』[歩調]より
・陽子は唇をキュッと固くつぐんで、器用にいろ紙を折っていた。『氷点』[雪虫]より
・夏枝は啓造の言葉をきくと、キュッと口をつぐんだ。『氷点』[ピアノ]より
きゅっきゅっ
・夏枝は台ぶきんで食卓のひとっところをキュッキュッと拭きながら、何か考えていた。『氷点』[雨のあと]より
・陽子は隅の方から、きゅっきゅっと力をこめて拭きはじめた。『氷点』[冬の日]より
・「……下駄がきゅっきゅっと鳴ってるわ」『氷点』[冬の日]より
・乾いたふきんでキュッキュッと力をこめて茶碗をふいた。『氷点』[千島から松]より
ぎょろり
・高木はそういってから、大きな目をギョロリとさせて、……『氷点』[チョコレート]より
・すると毛虫のような眉毛の、目のギョロリとした悪漢の顔が目にうかんだ。『氷点』[よそおい]より
きらきら
・夕日にきらきらと輝く川に向って、徹はあきずに石を投げていた。『氷点』[線香花火]より
・電灯の下に金銀の紙がキラキラと光っている。『氷点』[チョコレート]より
・きらきらと光る目が、まっすぐに啓造をみあげていた。『氷点』[ゆらぎ]より
・小説を読んだ心のほてりが、陽子の目をきらきらと輝かせていた。『氷点』[千島から松]より
・陽子の目がきらきらと美しく輝いていた。『氷点』[とびら]より
きらり
・ふいに村井の目からキラリと涙がこぼれおちた。『氷点』[雨のあと]より
・夏枝は、村井のキラリとこぼれおちた涙を思いだしていた。『氷点』[雨のあと]より
・一瞬、高木の目がキラリと光った。『氷点』[雪けむり]より
ぎりぎり
・もう時間ぎりぎりだった。『氷点』[冬の日]より
きりり
・床に膝をつけずに拭くその姿勢には、内弟子よりもきりりとした気構えがあった。『氷点』[冬の日]より
ぎりり
・目を一杯に見ひらいて、下唇を血のにじむほどぎりりとかんだ。『氷点』[激流]より
ぐい
・高木はウイスキーを流しこむように、グイとのんだ。『氷点』[チョコレート]より
・高木は力いっぱい、グイッとアゴの無精ひげを一本ぬいた。『氷点』[チョコレート]より
・涙を腕でグイと拭ったその時である。『氷点』[白い服]より
・小学校一年生のような、ういういしい真剣さで生きようとした啓造の心持は再び垢にまみれた手で、もとの生活にグイと引きもどされた感じだった。『氷点』[雪虫]より
・高木はそういうと、ネクタイをひいてグイとゆるめた。『氷点』[雪虫]より
・村井は涙をぐいとぬぐった。『氷点』[行くえ]より
・「……ひもをグイと引張られると、親分の肩にのってどこへでも連れて行かれてしまう」『氷点』[冬の日]より
くくっ
・そして息を引くように、くくっとのどを鳴らしたかと思うと、ワッと泣きだした。『氷点』[激流]より
くすくす
・陽子はラジオの落語にききいって、クスクス笑っている。『氷点』[台風]より
・くすくす笑っている男子もいる。『氷点』[答辞]より
ぐずぐず
・一つのことをいうにも、いおうか、いうまいかとたえずぐずぐずと思い悩む啓造であった。『氷点』[青い炎]より
・それを知りつつ、啓造はぐずぐずと帰宅が遅くなった。『氷点』[千島から松]より
・定時に帰らないと、またぐずぐずと遅くなると啓造は思った。『氷点』[千島から松]より
・辰子の言葉を夏枝に伝えようと思いながらも、ぐずぐずとしてその年もいつか過ぎていった。『氷点』[赤い花]より
・夏枝はひな祭りの度に、飾ることのないひな人形を思っては、ぐずぐずと心の中で啓造や陽子を憎んでいた。『氷点』[階段]より
・学生時代に英語をならいに宣教師のところに通った時は、教会はこんなに入りにくくはなかったと思いながら、ついにぐずぐずとして啓造は教会に入りそびれた。『氷点』[階段]より
ぐっ
・にわかにぐっと高まる感情が夏枝の両手に集った。『氷点』[激流]より
・陽子はぐっと胸をつかれた。『氷点』[千島から松]より
くっきり
・ストローブ松の林の影が、くっきりと地に濃く短かかった。『氷点』[敵]より
・氷を溶かしたような清い流れの向うに、冬にはスキー場になる伊の沢の山が見え、遥か東の方には大雪山につらなる十勝岳の連峰がくっきりと美しい。『氷点』[誘拐]より
・そこには紫のあざが二つ、くっきりとついているではないか。『氷点』[雨のあと]より
・夏枝のうなじに残るむらさきのあざが、くっきりと目に浮んだ。『氷点』[回転椅子]より
・みどりいろの弧をえがいた旭橋の向うに遠い山脈がうすむらさきの線をくっきりとみせていた。『氷点』[行くえ]より
・それは、夏枝の白いうなじにくっきりと残ったむらさきのキスマークであった。『氷点』[淵]より
・大雪山の連峰がくっきりと大きく迫ってきた。『氷点』[川]より
・空が晴れて、十勝岳の連峰が青く、くっきりと美しかった。『氷点』[堤防]より
ぐっすり
・連日の疲れが出たのか啓造はいつのまにかぐっすりと眠ってしまった。『氷点』[千島から松]より
ぐったり
・夏枝はぐったりと重い陽子を抱きかかえて部屋に帰った。『氷点』[台風]より
・陽子はぐったりと疲れて、たてつけの悪い戸をガタピシさせていると、牛乳屋の主人が中から戸を開けた。『氷点』[大吹雪]より
・家に帰ると、疲れがでて夏枝は鏡台の前にぐったりと座った。『氷点』[答辞]より
くどくど
・夏枝は夏枝でまた、啓造の気のかわらぬうちにと思っているらしく、子供のことは、くどくどとたずねなかった。『氷点』[九月の風]より
くよくよ
・「……百円落した上に、損したといつまでもクヨクヨしていたら大損よ」『氷点』[白い服]より
ぐらぐら
・しかし、自分の父が、幼いルリ子姉さんの命をうばったと知った時、私はぐらぐらと地の揺れ動くのを感じました。『氷点』[遺書]より
くるくる
・靴下をくるくると外にまいて、啓造のつま先に靴下をはかせる。『氷点』[どろぐつ]より
・啓造は、和服に下駄のままで、なわをくるくる回したが、紐がみじかかった。『氷点』[雪虫]より
・村井は、ウイスキーのグラスを指にかぶせて、くるくると回した。『氷点』[雪虫]より
・結婚披露宴の時も、村井は祝辞を受けながら白いカーネーションを、ひざの上でくるくると回しつづけていた。『氷点』[行くえ]より
ぐるぐる
・陽子はオーバーのえりを立てて、その上から毛糸のマフラーをぐるぐると巻いた。『氷点』[大吹雪]より
・「それから街の中をぐるぐる走ったり……」『氷点』[雪の香り]より
くるり
・ルリ子はくるりと背を向けて応接室を飛び出して行った。『氷点』[敵]より
・高木は椅子をくるりっと、一回転させて立上ると、啓造をみおろした。『氷点』[回転椅子]より
・表情ゆたかな目をくるりとまわして、かるくにらんだ。『氷点』[ゆらぎ]より
・日本人ばなれのした顔立ちの女主人は、目を大きくくるりと動かして愛想よく笑った。『氷点』[白い服]より
・村井は器用な手つきで、くるりとコーヒー茶碗をまわしながらいった。『氷点』[歩調]より
・啓造の体はくるりと一回転して海にもぐった。『氷点』[台風]より
・高木は、そういってから、くるりと村井の方に体を向けた。『氷点』[雪虫]より
・陽子は目をくるりと夏枝に向けた。『氷点』[冬の日]より
・陽子はくるりと背を向けて茶碗をふきはじめた。『氷点』[千島から松]より
・陽子はふたたびくるりと背を向けて、今使ったふきんを消毒用のナベに入れてガスに火をつけた。『氷点』[千島から松]より
・草は一度くるりと回って流れて行った。『氷点』[堤防]より
・徹がくるりとふりむいて大またで近づいてきた。『氷点』[堤防]より
ぐるり
・「……ぐるりが山だろう?……」『氷点』[千島から松]より
・夏枝が部屋の中をぐるりと見まわした。『氷点』[ピアノ]より
ぐるりぐるり
・それは揺れているというよりも、幾本ものストローブ松が、ぐるりぐるりと小さく天をかきまわしているような感じだった。『氷点』[線香花火]より
・そういうと高木は、右に左にぐるりぐるりと椅子を回した。『氷点』[回転椅子]より
ぐんぐん
・医師もおどろくほどに、ぐんぐんともとにかえった。『氷点』[灯影]より
ごーごー
・林はごうごうと土の底から何かがわき返るような恐ろしい音を立てていた。『氷点』[誘拐]より
・ストーブがごうごうと音を立てて燃えていることさえ、徹には淋しく思えた。『氷点』[ピアノ]より
ごーっ
・ストーブはゴーッと音をたてて、みるみる煙筒の方まで赤くなった。『氷点』[大吹雪]より
こそこそ
・「……時々廊下でこそこそ立ち話をしたりしてね」『氷点』[行くえ]より
・「……かげでこそこそいうのきらいだわ。……」『氷点』[行くえ]より
・「……何もこそこそ出て行かなくってもいいと思いますわ」『氷点』[ピアノ]より
ごちゃごちゃ
・「……茶の間にゴチャゴチャ人が集まって、何かだらしのない感じではない?」『氷点』[千島から松]より
こっくり
・陽子はこっくりうなずいて、夏枝の肩にほおをよせた。『氷点』[つぶて]より
・陽子はコックリとうなずいた。『氷点』[橋]より
・思わず陽子が、大きくこっくりとうなずいた。『氷点』[橋]より
・陽子はこっくりとうなずいた。『氷点』[雪虫]より
こっそり
・今朝、陽子が洗面所にいる間に、こっそりと答辞の奉書紙をすりかえておいたのである。『氷点』[答辞]より
・「どうしたって、こうして書いてあるところをみると、徹はこっそり出て行ったんだろうね。……」『氷点』[ピアノ]より
ごっそり
・「……夏枝の着物ゴッソリ盗んでいけばよかった」『氷点』[灯影]より
・逆さにするとウイスキーや、チョコレート、バターなどがゴッソリと畳の上にひろがった。『氷点』[チョコレート]より
ごとごと
・次子が起き出して台所でゴトゴト音を立て始めた。『氷点』[誘拐]より
ごろごろ
・川原の石がゴロゴロとして幾度かつまずいた。『氷点』[誘拐]より
・徹は、うれしさのあまり、辰子から離れてたたみの上をごろごろところがった。『氷点』[ゆらぎ]より
・「……ところが面白いことに、いつも茶の間にごろごろしている連中が、こんな時はよくやってくれるんだからねえ。……」『氷点』[冬の日]より
・〈……軽石がごろごろしています。……〉『氷点』[千島から松]より
ごろり
・旅なれた様子の男は、そういってゴロリと横になった。『氷点』[台風]より
・クロバーが一面に生えていて、一升ビンが一本ゴロリと墓標の前に転がっていた。『氷点』[赤い花]より
・徹はごろりと横になった。『氷点』[ピアノ]より
ごわごわ
・息をすると鼻の中がゴワゴワとした。『氷点』[大吹雪]より
さーっ
・風がさーっと埃をまきあげて、ズボンのすそにからまるように吹きすぎていった。『氷点』[九月の風]より
ざーっ
・突然、トタン屋根にパラパラと小石が当ったような音がしたかと思うと、ザアッと音をたてて雨が降ってきた。『氷点』[雨のあと]より
さっ
・村井は夏枝の拒絶にはずかしめられた思いで、さっとドアを開けて玄関に出た。『氷点』[敵]より
・さっとたちあがると、……『氷点』[ゆらぎ]より
・さっと夏枝の顔色が青ざめた。『氷点』[どろぐつ]より
・夏枝がさっと顔色を変えた。『氷点』[橋]より
・徹がさっと手をのばしてそのうちの一冊をすばやく机のひき出しに入れた。『氷点』[よそおい]より
・くらい庭に電灯の光がさっと流れた。『氷点』[よそおい]より
・その時、暗やみを切り裂くような鋭い光が、さっと夏枝の手を照らした。『氷点』[台風]より
・その時、うしろのふすまがさっと開いた。『氷点』[台風]より
・サッと啓造の背筋が冷たくなった。『氷点』[台風]より
・啓造の声に、懐中電灯がサッと光を投げてきた。『氷点』[台風]より
・その目に、さっと涙が走ったかと思うと、みるみる涙は盛りあがった。『氷点』[行くえ]より
・その瞬間、徹はまるで電流にふれたようにピクリと体をふるわし、さっと身をかわした。『氷点』[淵]より
・さっと夏枝の顔色が変った。『氷点』[淵]より
・ふしぎに思って陽子の胸をまさぐると、豊かにまろやかな乳房が指にふれた、啓造は思わず、その胸に唇をよせると、たちまちさっと黒い幕が二人の間をさえぎって、啓造はおどろいて目がさめた。『氷点』[堤防]より
・次にまた、さっと二羽の雀が庭に降りた。『氷点』[堤防]より
・その時、さっと車のヘッドライトが雪道を照らした。『氷点』[ピアノ]より
・陽子をみたとたんに、北原の顔がさっと明るくなったのを夏枝はみた。『氷点』[とびら]より
・北原は新聞を手にとって、さっと目を走らせたが、やがて読み終ると、……『氷点』[とびら]より
ざっ
・「まあ、ざっとこういうことなんですがね。……」『氷点』[淵]より
さっさ
・徹は自分でも驚いたらしく、顔をあからめてさっさと二階にかけ上ってしまった。『氷点』[淵]より
・北原はそういって、さっさと徹のそばにもどって、あぐらをかいた。『氷点』[千島から松]より
・北原のおいたコップを洗っていた陽子が二人のそばをするりとぬけて、さっさと自分の部屋の方に行ってしまった。『氷点』[千島から松]より
・辰子はさっさと台所に行って、ビールやコップをチーズ、バターピーナツと共に持ってきた。『氷点』[千島から松]より
・辰子は啓造の気持を察したらしく、そういってさっさと別れて行った。『氷点』[階段]より
・(じゃ、さっさと帰ればいいんだ)『氷点』[階段]より
・北原が去ると、夏枝は陽子に何もいわずに、さっさと家へ入って行った。『氷点』[ピアノ]より
さっぱり
・高木はさっぱりした気性で、夏枝のことなど、とうに忘れているらしい。『氷点』[敵]より
・啓造は由香子が何をいいたいのか、さっぱりわからなかった。『氷点』[行くえ]より
・厄介払いをしたような、さっぱりした気持が、ふっとかげった。『氷点』[行くえ]より
・しかし、考えてみると、きれいさっぱり夏枝から離れて行ったとも思えなかった。『氷点』[行くえ]より
・頭もいいし、性格もあかるく、さっぱりとしていた。『氷点』[千島から松]より
・「……さっぱりとした男らしいお方ですわ」『氷点』[とびら]より
・「……そのさっぱりとして男らしい、嘘をいわない高木という男が、何でおじさんと組んで女のおばさんをだましたりしたのですか」『氷点』[とびら]より
さばさば
・とさばさばといった。『氷点』[ゆらぎ]より
・「……浮いた話もきかないし、こちとらは男のうちに入れないのか、話をしていても妙にサバサバとしていて、どういうのかねえ」『氷点』[雪けむり]より
・「でも、黒江先生って、さばさばしたいい方ですわ。……」『氷点』[千島から松]より
さやさや
・丈高くなったとうきびの葉が風にさやさやと音を立てている。『氷点』[誘拐]より
・いつのまにか丈の高くなったとうきび畑が風にさやさやと鳴る。『氷点』[大吹雪]より
さらさら
・陽子は逃げ場を失って、さらさらと乾いた雪の中に横になって、顔を埋めた。『氷点』[雪の香り]より
さらり
・夏枝のさらりとした口調に、啓造も素直にいった。『氷点』[雨のあと]より
・そう北原が思ったほど、夏枝はこだわりなく、さらりとしていた。『氷点』[とびら]より
ざわざわ
・「あきれたかね。おれもはじめは、そんなことを思っただけでもザワザワしたよ。……」『氷点』[チョコレート]より
・「おかあさんは、もし自分の家に、あんなに始終五人も六人もねころんだり、いぎたなくしていられたらと思っただけでも、ざわざわしますけれどね」『氷点』[千島から松]より
じくじく
・だから一層由香子のその言葉が、いつまでも心につきささり、その傷がじくじくと膿んでいた。『氷点』[冬の日]より
じっ
・定まらないままに、彼女はじっとゴミをみつめていた。『氷点』[敵]より
・よし子の母は、じっとしていられないようで、ドイツトーヒの林の方にかけて行った。『氷点』[誘拐]より
・村井は夏枝が受話器を耳に当てて、じっと聞いている姿を想像しているらしい。『氷点』[誘拐]より
・啓造は暗い木立にじっと目を向けたまま、その林の小道を犯人に手をひかれて、何も知らずにおとなしくついて行ったであろうルリ子を思い浮べた。『氷点』[ルリ子の死]より
・啓造は涙を拭ったハンカチをしばらく目におしあてていたが、顔を上げると、じっと自分の手をみつめた。『氷点』[ルリ子の死]より
・啓造はじっと自分の手をみつめながら、この手はルリ子を救うことはできなかったと思った。『氷点』[ルリ子の死]より
・しかしそれらの思いをじっと今日まで耐えてきた。『氷点』[ルリ子の死]より
・啓造が部屋にはいってきたのにも気づかぬのか、夏枝はじっと林の方をながめている。『氷点』[ルリ子の死]より
・呼ばれても、なおじっと林の方を見たまま、もの思いにふけっている夏枝のかなしみが、そのまま啓造の胸につたわってくるようであった。『氷点』[ルリ子の死]より
・だが夏枝は微動だにせずじっと床の上にいた。『氷点』[ルリ子の死]より
・先ほどから同じ姿勢でじっとすわっているその姿は、生きている者の姿とは思えなかった。『氷点』[ルリ子の死]より
・しかし、このごろの夏枝は女の子をみると、穴のあくほどじっとみつめたり、かがんで話しかけたり、抱きよせたりした。『氷点』[線香花火]より
・女の子はおびえた大きな目で、じっと啓造をみつめた。『氷点』[線香花火]より
・「何だ、そのあざは!」とどなりつけたい思いを啓造はじっとこらえた。『氷点』[雨のあと]より
・じっと目をつぶっていた。『氷点』[雨のあと]より
・高木が手術室にいる間、啓造はじっと座っていることもできず外に出た。『氷点』[九月の風]より
・まばたきもせずに、じっと蹄鉄屋の火をながめている由香子を、扱いかねて啓造は歩きだした。『氷点』[ゆらぎ]より
・啓造は、いつ夏枝がくるかといらいらしながら、じっとタンスの前に立っていた。『氷点』[どろぐつ]より
・(……いかなる苦しみにも、一人でじっと耐えてみせる!)『氷点』[どろぐつ]より
・「……進さんが、陽子ちゃん、とっても痛そうにしばらくじっと、しゃがんでいたよ、ってしらせたのだそうですの。……」『氷点』[つぶて]より
・しばらくじっとその場にしゃがんでいたという陽子の痛さが、啓造の身にしみてくる思いだった。『氷点』[つぶて]より
・じっと息をひそめて、夏枝は身動きひとつしなかった。『氷点』[激流]より
・夏枝はじっと息をひそめている間に、自分が恐ろしい鬼女に生まれかわって行くのではないかと思われた。『氷点』[激流]より
・自分でもひやりとするような、底光りのする目が、じっと自分自身をみつめていた。『氷点』[激流]より
・陽子は、その人がもう一度こちらをみないかと、じっとみつめていた。『氷点』[橋]より
・由香子は、啓造の言葉にじっと唇をかみしめた。『氷点』[青い炎]より
・由香子はじっとうつむいてハンカチを目にあてている。『氷点』[青い炎]より
・徹は何かいいたそうに、じっと父親の顔をみていたが、……『氷点』[よそおい]より
・まっくらな中で息をじっところしたまま、夏枝は全身を耳にした。『氷点』[台風]より
・啓造はじっと動かずに船の中にとどまろうと決心した。『氷点』[台風]より
・啓造は闇の中にじっと目をあけていた。『氷点』[台風]より
・高木は、啓造の膝にふれんばかりに間近にすわりこんで、じっと啓造の顔をのぞきこんだ。『氷点』[雪虫]より
・高木と啓造は、じっと顔を見合わせた。『氷点』[雪虫]より
・啓造はじっと高木の顔をみつめた。『氷点』[雪虫]より
・啓造は二人のやりとりをじっとながめていた。『氷点』[雪虫]より
・事務長はじっと啓造をみた。『氷点』[行くえ]より
・どなるように一言そういうと、村井は啓造を、じっとみつめた。『氷点』[行くえ]より
・村井は、陽子をじっとみつめた。『氷点』[行くえ]より
・「……そして、女のわたしだって、好きなふり一つ見せずに、じっとこらえているのに、村井先生ときたら、院長先生の奥さんのあとばかり追いかけているという評判じゃありませんか。……」『氷点』[行くえ]より
・「……その時あの子は立ったまま、すごい目でじっとぼくをにらみつけました。……」『氷点』[行くえ]より
・陽子の掃除する様子を、辰子はふところ手をしたままじっとみつめていた。『氷点』[冬の日]より
・だまりこんだ啓造を村井はじっと見ていた。『氷点』[うしろ姿]より
・辰子は答えずに、じっと啓造の顔をみた。『氷点』[うしろ姿]より
・辰子は啓造の顔をじっとみつめたままいった。『氷点』[うしろ姿]より
・「……話はしなくても時々じっと陽子ちゃんをみつめていたり、何だか気になりますわ」『氷点』[淵]より
・夏枝は、じっと啓造をみつめた。『氷点』[淵]より
・まして、陽子の思いつめたような横顔に、じっと視線を当てている青年が、チモシーの茂る小径に立っていることなど、気づくはずはない。『氷点』[千島から松]より
・おどろいて立上った時、白いワイシャツに黒ズボンの青年が、陽子をじっとみつめているのに気づいた。『氷点』[千島から松]より
・陽子はじっと焰から目をそらさない。『氷点』[千島から松]より
・陽子はじっと、肉からしみでて流れる脂をながめていた。『氷点』[千島から松]より
・啓造は陽子がじっと自分の話にききいっている様子に心をとめてはいなかった。『氷点』[赤い花]より
・啓造と陽子は並んでじっと丘の下の街をながめていた。『氷点』[赤い花]より
・トンボのうすい翅が陽に輝きながら、じっと動かない。『氷点』[赤い花]より
・陽子はじっと旭川の街をながめていた。『氷点』[赤い花]より
・啓造は足もとに咲く小さな赤い花をじっとみていた。『氷点』[赤い花]より
・陽子はじっと街の方をみおろしたまま、頭を横にふった。『氷点』[雪の香り]より
・寒くてじっと立っていることはできない。『氷点』[雪の香り]より
・が、北原はすぐ表情を改めて、じっと陽子をみつめた。『氷点』[雪の香り]より
・徹はじっと陽子の顔を見た。『氷点』[雪の香り]より
・陽子は、ひとつまみの灰になった北原の手紙をじっとみつめていた。『氷点』[写真]より
・徹は不安げにじっと陽子をみつめていたが、……『氷点』[堤防]より
・日曜など、郵便の配達される時間になると、じっと家にいることが苦痛でさえあった。『氷点』[街角]より
・陽子は目の前を通って行く北原を、クリスマス・ツリーの枝越しにじっとみつめた。『氷点』[街角]より
・受話器をじっと耳に当てたまま、その人は何気なく陽子をみた。『氷点』[街角]より
・陽子は、その女性をじっとみつめた。『氷点』[街角]より
・北原の出てくるまで、陽子はそこにじっと立ちつくしていたかった。『氷点』[街角]より
・オーバーの肩につもった雪をふり払いもせずに、陽子は店の灯のとどかない路地にじっと立っていた。『氷点』[街角]より
・〈……北原さんが本屋を出られ、食堂に入られると、雪の中にわたくしはじっと立って居りました。……〉『氷点』[街角]より
・〈……ただわたくしはあなたをじっと待っていたかったのです。……〉『氷点』[街角]より
・電灯の下にうすいみどりや、ピンクが微妙に変るのを徹はじっとみつめていた。『氷点』[ピアノ]より
・北原は、うなずいて、じっと陽子をみつめた。『氷点』[ピアノ]より
・北原はじっと陽子をみつめた。『氷点』[ピアノ]より
・陽子が去ると、夏枝はソファにすわったまま、じっと動かなかった。『氷点』[とびら]より
・「……目がさめると、どうも床の中にじっとしていられない」『氷点』[とびら]より
・夏枝は北原をじっと見まもった。『氷点』[とびら]より
・何もわからない陽子は、じっと二人の話をきいていた。『氷点』[とびら]より
・夏枝は刺し通すようなまなざしで、じっと陽子をみつめた。『氷点』[とびら]より
・陽子も北原も化石のように、じっと動かない。『氷点』[とびら]より
・陽子はその夏枝を、目の中に吸いこむようにじっとみつめた。『氷点』[とびら]より
しっかり
・と応接室に入って来たあの時まで、時間を戻すことができるなら、しっかりとこの胸に抱きしめて決してルリ子を離しはしないものを。『氷点』[誘拐]より
・徹はおびえたように、しっかりと啓造の手につかまった。『氷点』[線香花火]より
・「……しっかりとおぼえておけ!」『氷点』[みずうみ]より
・「……陽子はしっかりしているからね。……」『氷点』[橋]より
・徹は唇をかみしめ、しっかりとこぶしを握って、まだ開かない幕をみつめていた。『氷点』[白い服]より
・啓造は夏枝が村井と顔を合わせる瞬間の目のいろを、しっかりと見ておこうと思わずにはいられなかった。『氷点』[よそおい]より
・夏枝はハンドバッグをしっかりと胸にかかえて、降りてくる人の波に目を走らせた。『氷点』[よそおい]より
・身支度をととのえると、夏枝は徹としっかり手をつないで、陽子の部屋に行った。『氷点』[台風]より
・夏枝はいつしか祈るように、しっかりと手を合わせていた。『氷点』[台風]より
・啓造は高木をみすえるように、しっかりと見つめた。『氷点』[雪虫]より
・しっかりしているようでも陽子も高校一年の少女にすぎなかった。『氷点』[赤い花]より
・陽子はほおをあからめながらも、北原の視線をしっかりと受けとめた。『氷点』[雪の香り]より
・「……それで、今後ぼくも陽子さんもよっぽどしっかりしなくてはと思ってね。……」『氷点』[ピアノ]より
しっとり
・夏枝の声が、しっとりとうるおっていた。『氷点』[どろぐつ]より
・純白の雪の中を流れる冬の川は、くろく、しっとりと落ちついていた。『氷点』[雪の香り]より
・窓ガラスが水蒸気でしっとりとくもっていた。『氷点』[とびら]より
じっとり
・その広い額がじっとりと汗にぬれている。『氷点』[敵]より
・夏枝は、じっとりと手に汗をかいていた。『氷点』[台風]より
・汗がじっとりと額をぬらす。『氷点』[大吹雪]より
じとじと
・座っているだけでも、じとじとと汗ばんで来るような暑さであった。『氷点』[敵]より
しどろもどろ
・「……しどろ、もどろでつまらないことを申しあげましたが、これを以て第十三回卒業生一同を代表致しましての答辞と致します」『氷点』[答辞]より
しみじみ
・辰子はお茶を入れながら、しみじみといった。『氷点』[ゆらぎ]より
・四十日ぶりに、夏枝のまろやかなももの上に足をのせて、靴下をはかせてもらうと、啓造はしみじみと、……『氷点』[どろぐつ]より
・何となく、少年の日の、母の作ってくれたにぎり飯がしみじみと思い出された。『氷点』[台風]より
・彼のこの歌境にあった時の孤独を、いま啓造はしみじみと思いやることができた。『氷点』[雪虫]より
・啓造はしみじみと陽子があわれであった。『氷点』[赤い花]より
・北原はしみじみといった。『氷点』[ピアノ]より
・おかあさんは、少なくとも人間として持ち得る限りの愛情で、育てて下さったこととしみじみ思います。『氷点』[遺書]より
じめじめ
・陽子は人にかくれたじめじめとした交際はいやだった。『氷点』[写真]より
しゃん
・夏枝は、しゃんと首をあげて真正面から啓造をみつめた。『氷点』[淵]より
じゃんじゃん
・「……ようし、今度は遠慮しないで、じゃんじゃん書きますよ。……」『氷点』[雪の香り]より
しょんぼり
・いつか自分も白雪姫のように、家を出されるのではないかと、陽子はしょんぼりと勝手口をあけた。『氷点』[大吹雪]より
・啓造は、陽子がしょんぼりしているのをみると、かわいそうであった。『氷点』[ピアノ]より
じりじり
・朝からじりじりと照りつける太陽を彼は見上げた。『氷点』[ルリ子の死]より
じろじろ
・ウエートレスは好奇心をあらわにして、北原と夏枝をじろじろと見た。『氷点』[雪の香り]より
じろり
・だまりこんでいる啓造を、高木はじろりとみて、……『氷点』[九月の風]より
・高木は村井をジロリと見て、夏枝の前に写真をおいた。『氷点』[雪虫]より
じわじわ
・啓造はいいようのないさびしさが、体中にじわじわとひろがって行くのをかんじた。『氷点』[どろぐつ]より
しん
・船内放送のサインが入り、船室はシンとしずまり返った。『氷点』[台風]より
・しかし、すぐに再び場内はしんと静まりかえった。『氷点』[答辞]より
・場内はしんとして、陽子に好奇的な視線が注がれている。『氷点』[答辞]より
・場内は、しんと静まりかえって、緊張した空気がピシッとはりつめた。『氷点』[答辞]より
・世のすべてから捨てられたような、深いしんとした淋しさであった。『氷点』[答辞]より
・十八ヘクタール以上もある林の静けさが、林のそばの家の中にも満ち満ちて、しんとしている。『氷点』[赤い花]より
しんみり
・高木にしてはしんみりとしたもののいい方であった。『氷点』[チョコレート]より
すーっ
・スーッと背中が砂にふれたのである。『氷点』[台風]より
・花火が大きく夜空に広がると、暗やみの中からおし出されるように、そそり立った岩壁がスーッと姿をあらわす。『氷点』[川]より
ずーっ
・「……おかあさんは、ずうっとやさしくしてくれた。……」『氷点』[橋]より
ずかずか
・啓造はズカズカとぼたん色の掛けぶとんをふんで夏枝の肩をだいた。『氷点』[ルリ子の死]より
ずしり
・ずしりと思い聖書に、啓造は学生時代を思い出した。『氷点』[雪虫]より
ずたずた
・特にルリ子と同じ年ごろの女の子を見ると、胸がズタズタにさかれるような切なさであった。『氷点』[線香花火]より
・ズタズタに引きさかれた胸から、本当に血がしたたり落ちるのではないかと思われるほど、啓造は耐えがたく苦しかった。『氷点』[雨のあと]より
すっ
・すっと声を落した。『氷点』[灯影]より
・夏枝がすっと目をふせた。『氷点』[雨のあと]より
・すっと、陽子への感動が冷えた。『氷点』[つぶて]より
・踊りが始まると同時に、辰子の体に別の魂がすっと入るようなふしぎな印象があった。『氷点』[橋]より
・その時、船が三十度に傾き、救命具がひとつスッところがって宣教師のひざに来た。『氷点』[台風]より
・窓から顔がすっと出た。『氷点』[台風]より
・「……すると松崎はだまって、すっと立ち上りました。……」『氷点』[行くえ]より
・すっと立ちあがると、辰子は茶の間を出た。『氷点』[冬の日]より
・テレビの中の人物がすっと画面から抜け出てきそうな感じがする。『氷点』[赤い花]より
ずっ
・夏枝がずっと病床にあったからである。『氷点』[ルリ子の死]より
・無言でいられるよりは、言葉するどく責められる方がずっとらくであった。『氷点』[どろぐつ]より
・「でも、二三夫ちゃんね、ずっとせんに、いろがみくれたもの」『氷点』[つぶて]より
・「百円落さないと、わかんないけれど、ずっとせんに十円おとしたの」『氷点』[白い服]より
・「ずっと、ずっと、ずっとせんに死んだのに、どうして泣くの?」『氷点』[よそおい]より
・「ずっとせんに死んでも、思いだせば悲しいよ。……」『氷点』[よそおい]より
・毎日啓造の部屋に新聞を持ってくる由香子が、あの夜の電話以来、ずっと姿を見せなかった。『氷点』[行くえ]より
・「……徹は来年高校なものですから、このところずっと猛勉強ですの」『氷点』[冬の日]より
・啓造自身、あれ以来ずっと由香子のことが心にかかっていた。『氷点』[うしろ姿]より
・「……あの子はもうずっと以前から、陽子が妹でないことを知っていますわ」『氷点』[淵]より
・「……車で行くとね、ずっと田んぼで、かなり広い盆地だということがわかるよ」『氷点』[千島から松]より
・むしろいつもの陽子よりずっと明るい。『氷点』[雪の香り]より
・「……ずっと前から、陽子を妹としてではなく、血のつながっていない他人として、女性として、陽子のことを考えてきたんだ」『氷点』[堤防]より
・「……おにいさんは陽子が小さい時から、ずっとおにいさんよ。……」『氷点』[堤防]より
すっかり
・「やあ、ルリ子ちゃんとすっかり仲よくなりましてね」『氷点』[敵]より
・「奥さん退院なさったそうですが、もうすっかりいいんですか」『氷点』[西日]より
・何も知らずに、すっかり子供が気に入ったらしい夏枝をみると、啓造は意地の悪い喜びを感じた。『氷点』[九月の風]より
・ルリ子の顔はすっかり忘れた。『氷点』[よそおい]より
・と、このごろは啓造もすっかり安心をしていた。『氷点』[歩調]より
・「お体の方は、すっかり、およろしいんですの?」『氷点』[歩調]より
・四月の間は、雪がすっかりとけないので、道が悪い。『氷点』[うしろ姿]より
・熱い牛乳とストーブで、体がすっかり暖まった。『氷点』[大吹雪]より
・横になるとついうとうととなり、やがてすっかり寝入ってしまった。『氷点』[大吹雪]より
・「いいえ、徹は体もすっかり大人ですわ」『氷点』[淵]より
・(……晴れの場所で恥をかいた陽子は、すっかりしょげこんで高校入試にも失敗するかも知れない。……)『氷点』[答辞]より
・啓造はすっかり目がさえてしまった。『氷点』[千島から松]より
・「……徹のことがなければ、すっかり忘れているかも知れない)『氷点』[赤い花]より
・気がつくとカレーライスはすっかり冷えていた。『氷点』[雪の香り]より
・書斎の窓のカーテンをあけると、すでに外はすっかり夜が明けていた。『氷点』[堤防]より
・啓造は洗面を終えて、すっかりあたたまっている茶の間にもどった。『氷点』[とびら]より
・「……もうすっかりよろしいんですか」『氷点』[とびら]より
すっく
・そう思った時、啓造はすっくと立ち上っていた。『氷点』[ルリ子の死]より
すっぽり
・と手をのべると、陽子はにこにこしてすぐに、高木のあぐらの中に小さな腰をすっぽりと落した。『氷点』[雪けむり]より
すぱっ
・「……ぼくは、顔も年齢も名前も親も性質も、その他一切何も知らずにスパッとカケたいですよ」『氷点』[雪虫]より
ずばり
・珍しくズバリと啓造はいった。『氷点』[雪虫]より
ずばりずばり
・その啓造からみると、いつも思ったことをズバリズバリといって、人を恐れぬ男に見える高木にも、時には率直にいえないこともあるのかと思うと、高木と啓造の人間の差が縮まったようで、慰められた。『氷点』[青い炎]より
すべすべ
・すべすべの丸いひざ小僧があいらしかった。『氷点』[雪虫]より
・よく拭きこまれた板がすべすべとして気持がよかった。『氷点』[冬の日]より
すやすや
・何ごともなければ、いまごろルリ子はこのふとんの中で、スヤスヤと眠っているはずであった。『氷点』[誘拐]より
すらり
・そこには、長身のスラリとした、かつての村井はいなかった。『氷点』[よそおい]より
・足首の細いすらりと伸びたその足が、太もものあたりでは、まろやかに白く肉づいている。『氷点』[千島から松]より
ずらり
・軒の細いつららが、ガラス細工ののれんのように、ずらりと並んで輝いている。『氷点』[階段]より
するする
・幕がするすると開いた。『氷点』[白い服]より
ずるずる
・机のそばに立って読んでいた夏枝は、ずるずるとくずれるように床板の上にかがみこんでしまった。『氷点』[激流]より
・アッと思った瞬間、自転車は横すべりにずるずると滑って倒れた。『氷点』[白い服]より
するり
・夏枝は着物の上に寝巻をふわりとかけておいて、するりと着物をぬぐと、すばやく寝巻のひもをしめた。『氷点』[雨のあと]より
・青年には、すぐに人の心の中にするりと入りこむような親しさがあった。『氷点』[千島から松]より
・北原のおいたコップを洗っていた陽子が二人のそばをするりとぬけて、さっさと自分の部屋の方に行ってしまった。『氷点』[千島から松]より
すれすれ
・などと、カルテを持って、啓造の体すれすれに立つこともあった。『氷点』[西日]より
・ベルを鳴らして、自転車が二人の横をわざとすれすれに通りすぎた。『氷点』[歩調]より
そっ
・夏枝は、つつましく目をふせると、村井の手をそっとはずして暗室を出た。『氷点』[敵]より
・村井の唇がふれた頬に、そっと手を当てた。『氷点』[敵]より
・松田がルリ子をそっと川原にねかせるのも、夏枝を村井とだれかが抱えて連れ去るのも、ぼんやりとただ見ているだけであった。『氷点』[ルリ子の死]より
・水底にいるように自分の動きが緩慢なのを感じながら、啓造はルリ子の手をそっと握った。『氷点』[ルリ子の死]より
・「それを、そっと出すの」『氷点』[ゆらぎ]より
・啓造は、ふすまを細目にあけてそっとのぞいた。『氷点』[どろぐつ]より
・夏枝はあわてて、下着をそっとぬがせた。『氷点』[つぶて]より
・夏枝はそっと指でおさえてみた。『氷点』[白い服]より
・啓造は雪虫をソッとつまんだ。『氷点』[雪虫]より
・啓造は、来客用の出入口から、ソッと事務室を脱けだした。『氷点』[行くえ]より
・辰子の横顔を、夏枝はそっとながめて、『氷点』[冬の日]より
・すばやく身じまいをすると、足音をしのばせてそっと裏口から外に出る。『氷点』[大吹雪]より
・そっとふすまが開いた。『氷点』[千島から松]より
・陽子がそっと徹の耳にささやいた。『氷点』[川]より
・北原に傷つけられた自分を、陽子は自分一人の中にそっとしまっておきたかった。『氷点』[写真]より
・そっと床をぬけ出すと、夏枝が寝返りをうった。『氷点』[堤防]より
・啓造はそっと寝室を出て、書斎に入った。『氷点』[堤防]より
・枝折戸をあけて陽子は自分の部屋の戸口をソッとあけている。『氷点』[堤防]より
・そっと身じろぎをして、夏枝は目をふせた。『氷点』[とびら]より
・北原はそっと唇を近づけて、陽子をみた。『氷点』[とびら]より
ぞっ
・その姿にはゾッとするような妖気がただよっていた。『氷点』[どろぐつ]より
・その時、啓造は何となくゾッとした。『氷点』[つぶて]より
そっくり
・徹くんにしろ、ルリ子ちゃんにしろ、何かこう神経質な感じや、はれぼったいような眼なんか、院長そっくりじゃありませんか。『氷点』[敵]より
・眉の濃い額の秀でたあたりが、あまりにも佐石にそっくりであった。『氷点』[九月の風]より
・(……佐石にそっくりの娘だ。……)『氷点』[九月の風]より
・「そっくりだ。……」『氷点』[雪けむり]より
・電話できくと啓造の声にそっくりだった。『氷点』[赤い花]より
そろそろ
・(でも、もうそろそろ弾こうかしら。……)『氷点』[激流]より
・「……二時四十分に船が出るとおっしゃっていらしたから、もうそろそろ函館を出るころよ」『氷点』[台風]より
・「仕事の方も休まないし、そろそろ、いいんじゃないかね」『氷点』[雪虫]より
・「そろそろ今年も春のおさらいで大変でしょうな。……」『氷点』[冬の日]より
・「……体がそろそろ大人になる年ごろですわ」『氷点』[淵]より
・「……陽子ちゃんもそろそろ男の人の目につく歳ですからね。……」『氷点』[千島から松]より
ぞろぞろ
・ぞろぞろと人の出てくる改札口の柵にもたれて、陽子は今ついたばかりの汽車をみていた。『氷点』[橋]より
・再びベルが鳴ると、教師や、父兄たちが、ぞろぞろ入って来て父兄席についた。『氷点』[白い服]より
そわそわ
・その、そわそわとした夏枝の表情に啓造が鋭い視線をあてていることにさえ、彼女は気づかなかった。『氷点』[よそおい]より
だだだだ
・機関銃をダダダ……と射つとね、敵がバタバタ死ぬんだよ。『氷点』[敵]より
たっぷり
・夏枝は着物の袖を二の腕までたくしあげて、乳液をたっぷりとすりこんだ。『氷点』[白い服]より
だらだら
・だらだらと堤防を下ると、また林があった。『氷点』[敵]より
・この目でたしかに見たあの尊い生き方を、なぜ自分は真似ようとも、求めようともせずに十年近くも、だらだらと生きてきたのかと啓造は思った。『氷点』[階段]より
だらり
・角の薬屋の前に立っている黄色い旗が、ダラリと垂れ下っている。『氷点』[雪の香り]より
淡淡(たんたん)
・高木が独身をかこつこともなく、さりとて誇ることもなく淡々としていたからかも知れない。『氷点』[うしろ姿]より
ちかり
・辰子の目がチカリと光った。『氷点』[うしろ姿]より
ちっ
・「チェッ! いやな野郎だな」『氷点』[回転椅子]より
・「チェッ。……」『氷点』[雪虫]より
ちやほや
・しかしそのあとは別段チヤホヤするわけでもなく、……『氷点』[橋]より
ちゃん
・「……ぼくたちはちゃんと、るす番をするよ。……」『氷点』[歩調]より
・「あら、わたし、自分のおこづかいでチャンと買ってるわよ」『氷点』[大吹雪]より
ちょい
・「……人間のうちでも、品がちょいとちがうようだな」『氷点』[線香花火]より
ちょん
・「チョン! チョンチョンチョンチョンチョン」『氷点』[橋]より
ちょこちょこ
・ピンクの服に白いエプロンをかけたルリ子が、チョコチョコと入って来た。『氷点』[敵]より
・「……だれか近所の子が出て行くのを見て、あとからチョコチョコついて行くということもあるでしょう」『氷点』[誘拐]より
ちらちら
・粉雪がチラチラとしていて寒い日である。『氷点』[雪の香り]より
・チラチラと粉雪が降っているばかりだ。『氷点』[雪の香り]より
ちらっ
・「でも、いまだって陽子ちゃんのドングリをチラッとごらんになっただけですわ」『氷点』[みずうみ]より
ちらり
・啓造は村井の名をちらりと思い浮べた。『氷点』[ルリ子の死]より
・高木はチラリと夏枝を見て笑った。『氷点』[チョコレート]より
・アップに結いあげた髪から、ゆたかな胸のあたりまでをチラリとみて、……『氷点』[ゆらぎ]より
・次子と徹は笑ったが、夏枝はきびしい目をチラリとあげただけだった。『氷点』[どろぐつ]より
・また雪がちらついてきた。『氷点』[どろぐつ]より
・啓造は陽子のひろげたドングリをチラリとみただけで、湖をみおろしている。『氷点』[みずうみ]より
・徹は答えずに、ちらりと啓造の顔をうかがった。『氷点』[よそおい]より
・啓造はちらりと夏枝をみただけで何もいわない。『氷点』[よそおい]より
・夏枝の言葉に村井は、チラリと一べつしただけであった。『氷点』[歩調]より
・啓造は病院のことがチラリと頭をかすめた。『氷点』[台風]より
・啓造は村井の顔をちらりと見た。『氷点』[雪虫]より
・村井の結婚が近いのをチラリと思い浮かべた。『氷点』[行くえ]より
・陽子がわるびれずに挨拶するのを、辰子はちらりとみて笑った。『氷点』[冬の日]より
・辰子はちらりと村井を眺めただけである。『氷点』[うしろ姿]より
・夏枝は陽子をチラリと見あげて、北原に、……『氷点』[千島から松]より
・北原の目がチラリとバックミラーの陽子をみた。『氷点』[雪の香り]より
・徹は、陽子をチラリと見た。『氷点』[ピアノ]より
・夏枝はちらりと北原の視線をみた。『氷点』[とびら]より
ちらりちらり
・陽子の様子をチラリチラリとみながら、夏枝も北原のことを考えていた。『氷点』[とびら]より
つい
・(つい先ほどまで、見たこともなかった赤ん坊に、こうも母親らしい感情を持つことが、できるものだろうか)『氷点』[九月の風]より
・などと、やさしくしずかに、幾度もくり返す夏枝に、つい啓造は負けてきた。『氷点』[どろぐつ]より
・昨日、夏枝が知ってしまったことを、啓造はついに気づかなかったのである。『氷点』[青い炎]より
・つい、うっかりと、かわいいと思う日もあった。『氷点』[行くえ]より
・病院の玄関に入ると、つい窓ごしに事務室の中をながめる。『氷点』[冬の日]より
・「……つい忘れたんですもの。……」『氷点』[冬の日]より
・自分でも何となく好きで、つい先日壁にかけた絵である。『氷点』[うしろ姿]より
・横になるとついうとうととなり、やがてすっかり寝入ってしまった。『氷点』[大吹雪]より
・学生時代に英語をならいに宣教師のところに通った時は、教会はこんなに入りにくくはなかったと思いながら、ついにぐずぐずとして啓造は教会に入りそびれた。『氷点』[階段]より
・この世にこれほどやさしい笑顔の人がいるだろうかと、北原はつい夏枝に見とれていた。『氷点』[とびら]より
つー
・涙がつーと夏枝のほおを伝わって落ちた。『氷点』[九月の風]より
つくづく
・「……そのうちにこんなことにも馴れて、へとも思わなくなるんじゃないかと思うと、つくづく淋しくなることもありますよ」『氷点』[チョコレート]より
・高木は笑いもせずにそういって、啓造の顔をつくづくとながめていた。『氷点』[回転椅子]より
・犯人の佐石によく似た眉の赤ん坊を、啓造はつくづくとみた。『氷点』[九月の風]より
・徹はつくづくと陽子の顔をみた。『氷点』[川]より
・「おとうさんはね、つくづくと考えちゃったよ」『氷点』[赤い花]より
・緑橋通りにきて車をひろうと、啓造はつくづく自分という人間にあきれた。『氷点』[階段]より
・いま、ここに白い腕をかるく組んで立っている陽子をみると、徹はつくづく美しいと思わずにはいられなかった。『氷点』[堤防]より
・だが、何も知らない陽子がつくづくとあわれだった。『氷点』[堤防]より
・啓造はつくづくとそう思った。『氷点』[堤防]より
・啓造はつくづく自分を罪ぶかいと、思った。『氷点』[堤防]より
・しかし、今日のとり乱した様子のない陽子を思うと、夏枝はつくづくと、しぶとい人間だとあきれていた。『氷点』[とびら]より
つるつる
・馬橇の通った雪みちが、つるつると光っていた。『氷点』[冬の日]より
つるり
・高木は、あかくなった顔を大きな手でつるりとなでた。『氷点』[雪虫]より
つやつや
・大きなにぎり飯が四つ、つやつやとした黒い海苔に包まれていた。『氷点』[台風]より
・熊の毛がつやつやと輝いている。『氷点』[淵]より
てきぱき
・啓造は腹立たしくなって、事情をかいつまんでテキパキと説明した。『氷点』[誘拐]より
てっきり
・「……ぼくはてっきり陽子さんから手紙をつき返されたのかと思っていたんですよ。……」『氷点』[雪の香り]より
・「……てっきりあなたがつき返してよこしたと思って……」『氷点』[雪の香り]より
どきっ
・啓造の胸がドキッとした。『氷点』[行くえ]より
・茶の間を出ようとして陽子がふり返ると、どきっとするほど淋しい表情で徹が陽子を見あげていた。『氷点』[ピアノ]より
どきどき
・ルリ子は殺されるとき、どんなに恐ろしかったろうと思うと、ぼくは胸がドキドキした。『氷点』[よそおい]より
どぎまぎ
・高木は夏枝の急に思いつめたような目に、がらにもなくドギマギしていった。『氷点』[チョコレート]より
・夏枝はドギマギして答えた。『氷点』[激流]より
・啓造はちょっとドギマギして目をふせた。『氷点』[千島から松]より
どきん
・そう思うと胸がドキンと大きくうって、そのまま心臓がとまってしまいそうな感じであった。『氷点』[九月の風]より
とげとげ
・七年前ルリ子が死んだころの啓造は、夏枝にも冷たく、とげとげとしていたことがあった。『氷点』[激流]より
どっ
・みたび、ドッと笑い声がひびいた。『氷点』[どろぐつ]より
・林のたけり狂う音が激しくなったかと思うと、ドッと地ひびきがした。『氷点』[台風]より
・救命具がドッと座席に落ちた。『氷点』[台風]より
・その時、踊りが終って人々がどっと川の方におしよせた。『氷点』[川]より
どっか
・高木はドッカとあぐらをかいた。『氷点』[チョコレート]より
どっかり
・ただどっかりと川原の上に座っていただけであった。『氷点』[ルリ子の死]より
とぼとぼ
・陽子はとぼとぼと歩きだした。『氷点』[大吹雪]より
どん
・「おとうさんが小学校のころは、零下二十度になるとドンと花火があがって十時はじまりになったんですってね。……」『氷点』[雪の香り]より
どんどん
・肋膜腔に空気がどんどん入って、肺を圧迫するからね。『氷点』[みずうみ]より
なよなよ
・「ああこのなよなよと、やさしい感じの松?……」『氷点』[千島から松]より
・なよなよとした感じはなかった。『氷点』[雪の香り]より
にこっ
・啓造をみると、ニコッと笑って、陽子はふたたび機嫌よくはいだした。『氷点』[つぶて]より
・陽子はだまってニコッと笑った。『氷点』[橋]より
・そしてにこっと笑ってみる。『氷点』[冬の日]より
・北原はニコッと笑って、……『氷点』[千島から松]より
にこにこ
・と手をのべると、陽子はにこにこしてすぐに、高木のあぐらの中に小さな腰をすっぽりと落した。『氷点』[雪けむり]より
・「……いつもニコニコ笑っていてさ。……」『氷点』[橋]より
・舞台の陽子は、にこにこ笑いながら、元気一杯に踊っている。『氷点』[白い服]より
・そのそばで五歳ぐらいの女の子が、オーバーも着ないでにこにこしている。『氷点』[冬の日]より
・と、いったが、陽子はにこにこ笑うだけで、……『氷点』[大吹雪]より
・「……にこにこしていても、きかないんだね。……」『氷点』[大吹雪]より
・門灯の下に徹がにこにこと立っていた。『氷点』[ピアノ]より
にこり
・辰子はニコリともしないで、仏壇の前にすわって啓造を見あげた。『氷点』[灯影]より
・徹が、ニコリともせずにいった。『氷点』[つぶて]より
・徹は思わずにこりとした。『氷点』[白い服]より
・入って行くとニコリと目顔で迎えるが、……『氷点』[千島から松]より
にっこり
・にっこり笑って二階へあがって行った。『氷点』[ゆらぎ]より
・かけよった陽子を、夏枝はにっこりと笑ってうなずきながら抱きよせた。『氷点』[みずうみ]より
・辰子は三味線の糸をゆるめながら、陽子をみてにっこりと笑った。『氷点』[橋]より
・陽子は、にっこりした。『氷点』[橋]より
・陽子がにっこりと笑いかけた。『氷点』[白い服]より
・陽子は時計を見上げて、にっこりした。『氷点』[よそおい]より
・でき上がると陽子はにっこりして、いった。『氷点』[雪虫]より
・村井にそれを手わたして、にっこり笑った。『氷点』[行くえ]より
・辰子は陽子のうれしそうな顔をみて、にっこりした。『氷点』[冬の日]より
・「……その時にこそ、にっこり笑って行きて行けるだけの元気を持ちたいと思います。……」『氷点』[答辞]より
・北原が指すと、夏枝がにっこりとうなずいた。『氷点』[千島から松]より
・「……その時にこそ、にっこり笑って生きて行けるだけの元気を持ちたいと思います」『氷点』[とびら]より
・二人は顔を見あわせて、にっこりと笑った。『氷点』[とびら]より
にやっ
・啓造の言葉に正木はニヤッと笑った。『氷点』[赤い花]より
にやにや
・高木がニヤニヤした。『氷点』[回転椅子]より
・辰子が芝居の幕切れの拍子木を、口でまねてニヤニヤした。『氷点』[橋]より
・そういって村井はニヤニヤした。『氷点』[雪虫]より
・高木の言葉に、村井がまたニヤニヤした。『氷点』[雪虫]より
・村井はニヤニヤした。『氷点』[雪虫]より
・辰子がにやにや笑って、お茶をいれている。『氷点』[冬の日]より
・啓造の言葉に辰子がにやにやした。『氷点』[うしろ姿]より
・辰子は啓造をみてにやにやしながら、……『氷点』[千島から松]より
・ふり返ると辰子が、にやにやと笑っていた。『氷点』[階段]より
・徹はまじめな顔をして答えてから、にやにやした。『氷点』[ピアノ]より
にやり
・ひとつひとつ、区切るようにいって村井は、にやりと笑った。『氷点』[西日]より
・だまりこんだ啓造をみて、村井がふたたびニヤリと笑った。『氷点』[西日]より
・啓造の自信ありげな言葉に、高木はニヤリと笑うと再び椅子にすわった。『氷点』[回転椅子]より
・うなだれるようにして座っている啓造をみながら、高木はニヤリとして、……『氷点』[九月の風]より
・高木がニヤリとして、……『氷点』[九月の風]より
・走りさるジープの中から、まだ少年の感じのうせないアメリカ兵がニヤリと笑った。『氷点』[どろぐつ]より
・辰子は一人ニヤリと笑って受話器をとった。『氷点』[橋]より
・そういってから、村井はニヤリと笑った。『氷点』[歩調]より
・村井はニヤリと笑った。『氷点』[雪虫]より
ぬけぬけ
・まさか、こんなにぬけぬけと嘘をつけるとは思ってもみなかった。『氷点』[回転椅子]より
ぬっ
・懐中電灯を闇に向けると、そこにだれかがヌッと立っているような感じがした。『氷点』[誘拐]より
・いまにも、夏枝の部屋にヌッと恐ろしい人影が現われそうに思えてならなかった。『氷点』[台風]より
のっそり
・ノッソリと自分の家のような顔をして入ってくる。『氷点』[橋]より
・砂利をふむ音に思わず立ちあがると、どこかの犬がのっそりとよぎっていくのが門灯の下にみえた。『氷点』[台風]より
・寒いためか人通りも車もさすがに少なく、大きな犬がのっそりと車道を横切るのが見えた。『氷点』[雪の香り]より
のびのび
・啓造は本州に渡ってしまっていると思うと、夏枝は解放感で身も心ものびのびする思いであった。『氷点』[台風]より
のろのろ
・しばらくして、電話がとうに切れているのに気づくと、彼はのろのろと電話の前をはなれた。『氷点』[ルリ子の死]より
・夏枝はのろのろと啓造をみた。『氷点』[ルリ子の死]より
・陽子は、のろのろと動きだした貨車をながめながら、目にいっぱい涙をためていた。『氷点』[橋]より
・半里もの道を、徹は母への腹立たしさをつのらせながら、のろのろと歩いて行った。『氷点』[白い服]より
・長身の背を、心もちかがめるようにして、村井はのろのろと歩いている。『氷点』[うしろ姿]より
・村井は挨拶も返さずに、うつむいてのろのろと歩いて行く。『氷点』[うしろ姿]より
・見つめたまま陽子はのろのろと夏枝のそばに寄って行った。『氷点』[とびら]より
のんびり
・子供がいなくなったことを告げると、なーんだ迷い子ですかというように、のんびりした口調で警官は応答した。『氷点』[誘拐]より
・いつものんびりと朗らかだった。『氷点』[うしろ姿]より
ぱー
・「……ルリ子ちゃんは死んでしまう、夏枝はパアになる。……」『氷点』[灯影]より
ばーっ
・「陽子ちゃん、陽子ちゃん、バァ」『氷点』[どろぐつ]より
はきはき
・啓造がだまってうなずくと、辰子はちょっと目頭をおさえたが、再びハキハキと、……『氷点』[灯影]より
・夏枝は陽子のこととなると、いつも急にはきはきと意見をのべる。『氷点』[みずうみ]より
・しかし妙にハキハキとした言葉づかいが、啓造の神経にさわった。『氷点』[みずうみ]より
・「……ハキハキして、とってもお勉強をして、おしゃべりをしないもの」『氷点』[雪けむり]より
・と、やや口ごもってから、急に語調がハキハキとした。『氷点』[行くえ]より
・北原はハキハキとした明るい態度だった。『氷点』[ピアノ]より
ばたばた
・機関銃をダダダ……と射つとね、敵がバタバタ死ぬんだよ。『氷点』[敵]より
・高木はあぐらのひざを、バタつかせた。『氷点』[チョコレート]より
・啓造がいうと、陽子は廊下をバタバタと走って、すぐに大きなボール箱を持ってきた。『氷点』[雪虫]より
・「北原君がいるのに、ばたばたすることもできないよ。……」『氷点』[ピアノ]より
ぱたり
・風はうそのようにパタリとやんで、青空がのぞいている。『氷点』[大吹雪]より
ばたん
・バタンと大きな音を立てて啓造がピアノのふたをしめた。『氷点』[敵]より
ぱちぱち
・陽子は、目をパチパチさせた。『氷点』[橋]より
はっ
・はっとした瞬間、『氷点』[敵]より
・夫の気配に夏枝はハッとした。『氷点』[敵]より
・はっとして夏枝は顔を上げた。『氷点』[誘拐]より
・啓造も夏枝も村井もハッと椅子から立ち上った。『氷点』[誘拐]より
・啓造は、はっと我に返った。『氷点』[ルリ子の死]より
・その時、啓造は思わずはっとして村井をみた。『氷点』[ルリ子の死]より
・ハッとした啓造は、職業的なまなざしで村井をみつめた。『氷点』[西日]より
・その行列の中に小さな女の子をみた時、啓造はハッとして歩みをとめた。『氷点』[九月の風]より
・ハッとして啓造は高木をみた。『氷点』[九月の風]より
・ハッと立ちどまると、……『氷点』[どろぐつ]より
・夏枝は思わずハッと、洗う手をとめた。『氷点』[みずうみ]より
・しかし、夏枝は何となくハッとした。『氷点』[雪けむり]より
・啓造は徹の鋭い感受性を無視していたことに気づいて、ハッとした。『氷点』[橋]より
・と、いいかけてハッとした。『氷点』[歩調]より
・誰かが激しくガラス戸をうちたたく音に、夏枝はハッと目をさました。『氷点』[台風]より
・ハッと身をちぢめた瞬間、……『氷点』[台風]より
・はっと夏枝は息をのんだ。『氷点』[台風]より
・ハッとして、夏枝は玄関に出て行った。『氷点』[台風]より
・啓造はハッとした。『氷点』[台風]より
・啓造はハッとわれに返った。『氷点』[台風]より
・そう思ってから、ハッと気づいた。『氷点』[行くえ]より
・男であっても、女であっても必ず村井を見た瞬間、はっと息をのむように凝視する。『氷点』[うしろ姿]より
・陽子はハッとした。『氷点』[大吹雪]より
・啓造は思わずハッとした。『氷点』[淵]より
・二人がはっとしてふり返ると、徹が敷居の上につっ立っていた。『氷点』[淵]より
・茶の間に一歩足をふみ入れた啓造は、思わずハッとして立ちどまった。『氷点』[千島から松]より
・陽子は思わずハッとした。『氷点』[雪の香り]より
・ページを開いたところに、啓造は目をやって、思わずハッとした。『氷点』[階段]より
・陽子は思わずハッとした。『氷点』[写真]より
・陽子の言葉に徹はハッとした。『氷点』[堤防]より
・徹の言葉に陽子はハッとした。『氷点』[堤防]より
・気づいて徹ははっとした。『氷点』[堤防]より
・啓造はハッとした。『氷点』[堤防]より
・陽子はハッとしてすくんだように立っていたが、北原は黒いネッカチーフをかぶった女性と話をしながら、陽子の方に近づいてくる。『氷点』[街角]より
・〈……その時わたくしはハッと致しました。……〉『氷点』[街角]より
・北原は思わずハッとした。『氷点』[とびら]より
ぱっ
・中からパッと飛びだして、啓造につきあたったのは事務員の松崎由香子だった。『氷点』[西日]より
・夏枝は、パッと明るい表情になった。『氷点』[どろぐつ]より
・おだやかに啓造は答えたつもりだが、由香子はパッと顔をあからめて、……『氷点』[歩調]より
・陽子の顔がパッと輝いた。『氷点』[雪虫]より
・「……院長が死んだと思った途端にパッと目がさめて、なんだ夢だったのか、いく度がっかりしたかわかりません」『氷点』[行くえ]より
・陽子は朝五時になると、決ってパッと目がさめる。『氷点』[大吹雪]より
・夏枝ははじかれたようにパッとうしろに退いて叫んだ。『氷点』[淵]より
・陽子は自分の言葉にパッとほおをあからめた。『氷点』[赤い花]より
・(……それともパッと逃げだすかしら。……)『氷点』[堤防]より
・陽子の顔がパッと輝いた。『氷点』[堤防]より
・陽子はパッと顔をあからめて、急いで玄関に出ていった。『氷点』[ピアノ]より
はっきり
・今日縁談を持ち出したのも、村井に結婚をすすめるためではなく、夏枝に対する関心がほんとうのところ、どの程度のものかを、はっきり知りたいためかも知れなかった。『氷点』[敵]より
・ルリ子の首には、はっきりと扼殺の跡があった。『氷点』[ルリ子の死]より
・村井と夏枝が、あの日いったい何をしていたのか、はっきりと知りたかった。『氷点』[線香花火]より
・「いや、こういうことは子供のうちにハッキリさせておこう。……」『氷点』[みずうみ]より
・「最初っから、辻口にもはっきりいってある。……」『氷点』[雪けむり]より
・明るく、ハッキリした声であった。『氷点』[橋]より
・昨夜一睡もしなかったらしい夏枝の、浮かない表情をいつのまにか、啓造ははっきり思い浮かべていた。『氷点』[青い炎]より
・ひそひそとささやき合う声が、徹には恐ろしくはっきりと聞えた。『氷点』[白い服]より
・汽車の窓から顔を出して、いつまでも手をふっていた啓造の姿が、妙にはっきりと目に浮かんだ。『氷点』[台風]より
・どのぐらい眠ったのか、大相撲の中継放送が遠くから聞えていたが、だんだん近くなって、啓造はハッキリと目をさました。『氷点』[台風]より
・「……今日は何もかもハッキリさせましょう。……」『氷点』[行くえ]より
・啓造は今こそ、はっきりとこの事実を夏枝につきつけたかった。『氷点』[淵]より
・「……あの日のことを、十年以上たった今でもわたしは、はっきりおぼえているがね。……」『氷点』[淵]より
・「……だれとどこで何をしていたか、今ここでハッキリといってみたまえ!」『氷点』[淵]より
・誰かの小さな咳ばらいが、はっきりと聞える。『氷点』[答辞]より
・そうすることによって、自分と陽子は血のつながっているきょうだいだとはっきり自分にいいきかせたかった。『氷点』[川]より
・死んでまで、貧富の差がはっきりしている和人の墓地のような傲岸な墓はない。『氷点』[赤い花]より
・写真というものは、何日たっても心にはっきり焼きついて始末が悪かった。『氷点』[写真]より
・この際はっきりと、陽子との交際を夏枝の前でいっておきたかった。『氷点』[とびら]より
・「……はっきりした証拠があるかないかを、ききだしてきますよ」『氷点』[とびら]より
・小学校一年の時に夏枝に首をしめられたこと、中学卒業の答辞の紙をすりかえられたこと、それらがどんな意味を持っていたかを、陽子ははっきりと知ることができた。『氷点』[とびら]より
ばったり
・「……あ、そうそう、三日ほど前にね、札幌に行ったら、ニシムラの喫茶で、高木さんにバッタリ会ったわ。……」『氷点』[灯影]より
ぱったり
・「元気ならいいけれど、六月ごろからパッタリ来なくなったのよ」『氷点』[千島から松]より
・陽子は北原からの何通かの手紙を封も切らずに燃やしてしまったくせに、ぱったりと手紙がこなくなると、さびしくて、いても立ってもいられない思いがした。『氷点』[街角]より
ぱっちり
・陽子がパッチリとした目を光らせて、話を聞いている。『氷点』[冬の日]より
ぱっぱ
・「煙草をパッパ、パッパとふかすからさ」『氷点』[どろぐつ]より
・「……でもさ、煙草をパッパとふかすからパッパで、ママをたくからママのほうがいいよね」『氷点』[どろぐつ]より
はらはら
・夏枝は今にも辰子が何もかも話してしまうのではないかと、はらはらした。『氷点』[冬の日]より
・時々、音もなく木の枝から雪がはらはらと落ちている。『氷点』[淵]より
・啓造も夏枝も、その徹をはらはらしながら見守るばかりで、特に夏枝は徹を恐れておどおどした。『氷点』[淵]より
・陽子は徹がどんなに不機嫌でも、はらはらしたり嫌ったりはしなかった。『氷点』[淵]より
ばらばら
・足がばらばらになったかと思うほどガクガクした。『氷点』[ルリ子の死]より
ぱらぱら
・突然、トタン屋根にパラパラと小石が当ったような音がしたかと思うと、ザアッと音をたてて雨が降ってきた。『氷点』[雨のあと]より
・男が妻や子のことを考えるのは、一体いつなのかと、夏枝は日記をパラパラとめくった。『氷点』[激流]より
・啓造はぱらぱらと目次をめくった。『氷点』[よそおい]より
・聖書をパラパラ読むだけでは、啓造の心の中にまだ信仰の実りはない。『氷点』[答辞]より
・徹はだまって、読みかけの「ツアラトゥストラ」をパラパラとめくった。『氷点』[雪の香り]より
・啓造は手にとってパラパラとページをめくった。『氷点』[階段]より
ぱらり
・だが黒地に銀の柳の葉をパラリと散らした和服姿の辰子が、子供心にも美しく思われた。『氷点』[橋]より
ばりばり
・バリバリと木の枝がひきさかれる音がする。『氷点』[台風]より
ぱん
・「赤ちゃん、おへそのところが、パンとわれて、うまれてくるんだよね」『氷点』[ゆらぎ]より
びくっ
・びくっとしたようにパイプの動きがとまった。『氷点』[淵]より
ぴくっ
・陽子はピクッとした。『氷点』[千島から松]より
ひくひく
・唇がひくひくとけいれんしている。『氷点』[淵]より
びくり
・アナウンサーの声に、夏枝と徹はビクリとした。『氷点』[台風]より
ぴくり
・少しの音にもピクリと肩をふるわせ立ち上る夏枝を、啓造は苦々しげに見つめていた。『氷点』[誘拐]より
・高木はふとい眉毛をピクリとあげたが、何か考えるように、くらくなった庭に視線を投げていた。『氷点』[チョコレート]より
・太い眉がピクリと動いた。『氷点』[大吹雪]より
・その瞬間、徹はまるで電流にふれたようにピクリと体をふるわし、さっと身をかわした。『氷点』[淵]より
・湯上りの陽子に肩に手をかけられた時、思わずピクリと身をかわしたことがあった。『氷点』[淵]より
ぴしっ
・二人の視線がピシッと音を立てるようにぶつかった。『氷点』[淵]より
・場内は、しんと静まりかえって、緊張した空気がピシッとはりつめた。『氷点』[答辞]より
ぴしり
・啓造は、ピシリとムチで打たれたように思った。『氷点』[ゆらぎ]より
ひそひそ
・徹は周囲のひそひそ話し合う声に、誇らしくなった。『氷点』[白い服]より
・ひそひそとささやき合う声が、徹には恐ろしくはっきりと聞えた。『氷点』[白い服]より
・陽子が蒲団の上に起きかけた時、隣の部屋からひそひそと話声が聞えてきた。『氷点』[大吹雪]より
・障子一枚をへだてただけのとなりの部屋の声は、ひそひそ声でもよく聞える。『氷点』[大吹雪]より
ひた
・雪虫がひたと吸いよせられるように、啓造の合オーバーについた。『氷点』[雪虫]より
ぴたり
・由香子は白いズックの運動ぐつで音もなく追いついて、それがくせのピタリとよりそうように啓造とならんだ。『氷点』[ゆらぎ]より
びっくり
・「びっくりしましたよ」『氷点』[誘拐]より
・セーター姿の辰子をみると、びっくりしてまじまじとみつめていた。『氷点』[ゆらぎ]より
・「……それで、びっくりしてあやまりに見えたんですわ」『氷点』[つぶて]より
・と、ぼくがいうと、陽子はびっくりして青くなった。『氷点』[よそおい]より
・「びっくりなさいましたか」『氷点』[歩調]より
・「……わたくし、びっくりして……。……」『氷点』[淵]より
・大きな目を一層大きく見開いて、ほんとうにびっくりしたという無邪気な驚きの表情である。『氷点』[雪の香り]より
・「……おかあさんがびっくりなさるわ」『氷点』[ピアノ]より
ひっそり
・旭川市郊外、神楽町のこの松林のすぐ傍らに、和、洋館から成る辻口病院長邸が、ひっそりと建っていた。『氷点』[敵]より
・みたところ見本林はひっそりとして、子供達の声も姿もなかった。『氷点』[誘拐]より
・二年生の陽子が、あの暗い中に一人ひっそりとねむっている姿を想像すると、啓造は陽子にあやまりたいような思いに襲われた。『氷点』[よそおい]より
・墓地とはいっても、和人のそれのように『何々家』と境をしたものではなく、エンジュの木で造った墓標がつつましくひっそりと、並んでいるだけであった。『氷点』[赤い花]より
・陽子はひっそりとした辰子の茶の間を想像すると無性に行きたくなった。『氷点』[雪の香り]より
ぴったり
・徹が啓造のそばにぴったりとよった。『氷点』[ゆらぎ]より
・はかす方も、はかされる方も、長年の馴れで呼吸がぴったりと合った。『氷点』[どろぐつ]より
・しかし靴下をはく呼吸はぴったり合ってはいても、今二人の心はどこかでくいちがっていた。『氷点』[どろぐつ]より
・(夫婦の本当の結びつきは、体以外の、もっと心のふかいところで、ぴったりと合うものではないだろうか。……)『氷点』[どろぐつ]より
・「……おとうさんには数え年の方が見当がついてピッタリするよ。……」『氷点』[とびら]より
ひやり
・ふと、先程のルリ子の言葉を思い出して、夏枝はヒヤリとした。『氷点』[敵]より
・自分でもひやりとするような、底光りのする目が、じっと自分自身をみつめていた。『氷点』[激流]より
・思わず啓造はヒヤリとした。『氷点』[赤い花]より
・何かヒヤリとするようなものを北原は感じた。『氷点』[とびら]より
ひゅーん
・花火があがるたびにヒューンと金属性の音をたてた。『氷点』[川]より
ひょい
・次に歩いてきたくたびれた背広の男が、かがんでヒョイと何かをつまみあげた。『氷点』[九月の風]より
ぴょこん
・ピョコンとおじぎをすると、その子はもものあたりをズボンの上から、もそもそとかいた。『氷点』[白い服]より
ひょっ
・(だが、ひょっとするとムッター(母)からもれないとも限らない)『氷点』[千島から松]より
ひょっこり
・時々ひょっこりと札幌から出て来て、病院に啓造を訪ねると、……『氷点』[敵]より
・どこかで由香子の死体が発見もされない間は、ひょっこり思いがけなく帰ってくるような気がした。『氷点』[冬の日]より
ひょろひょろ
・「……このひょろひょろと栄養失調のような松は何というんですか」『氷点』[千島から松]より
ひょろり
・白いセーターに黒の半ズボンのひょろりと背の高い徹と、クリーム色のセーター、茶色のスカートの陽子がならんでかけてきた。『氷点』[みずうみ]より
ひらり
・それは夏枝の肩の一部が白い蝶に化して、ひらりと舞いあがったようなふしぎな印象であった。『氷点』[ルリ子の死]より
・口をあけて待っているのに、ふしぎに雪は口の中に入らずに、すぐ目の前まで降ってきては、ひらりと逃げて行くようだった。『氷点』[雪の香り]より
ぴりぴり
・まぶたが波にこすられて、ピリピリ動くのがわかった。『氷点』[台風]より
ぴん
・その一年生は両手をピンとのばし「気をつけ」の姿勢で立っている。『氷点』[白い服]より
ぴんしゃん
・「元気といったところで、どうせお前はピンシャンと生きのいい顔をしていないだろう?……」『氷点』[青い炎]より
ふい
・沈黙がつづくと啓造はふいに、……『氷点』[灯影]より
・ふいに村井の目からキラリと涙がこぼれおちた。『氷点』[雨のあと]より
・ふいに何もかもが、無意味に思われた。『氷点』[雨のあと]より
・そう思った時、啓造はふいに不安に襲われた。『氷点』[九月の風]より
・ふいにうしろから呼ばれた。『氷点』[ゆらぎ]より
・啓造はふいに足をすくわれたような、不安定な心のままにいった。『氷点』[どろぐつ]より
・その時ふいに、啓造は陽子が果して佐石の子かどうか疑わしくなった。『氷点』[つぶて]より
・ふいに村井靖夫の淋しいような、ニヒルな表情が思い出された。『氷点』[激流]より
・いつも一点をみつめているような、激しい由香子の目の色がふいにうるんだ。『氷点』[青い炎]より
・徹にそういわれると、夏枝はふいに不安になった。『氷点』[台風]より
・ふいに啓造の胸が不安にとどろいた。『氷点』[台風]より
・ふいに村井は顔をあげた。『氷点』[行くえ]より
・「ふいに肩に手をおかれて、おどろいただけだよ」『氷点』[淵]より
・「……そして、……ふいに、首すじに……。……」『氷点』[淵]より
・ふいにガラリとふすまがあいた。『氷点』[淵]より
・ふいに切迫したような、北原の声がした。『氷点』[千島から松]より
・ふいに辰子が啓造をみた。『氷点』[千島から松]より
・ふいに徹の声がした。『氷点』[赤い花]より
・啓造はふいに正木の死顔を思い浮かべた。『氷点』[赤い花]より
・雪はふいに空中で湧いてくるように見えた。『氷点』[雪の香り]より
・ふいに北原は立上った。『氷点』[雪の香り]より
・そして、喫茶店でふいに用事を思い出したといって中座した北原の、自分をさげすむような表情を忘れることはできなかった。『氷点』[雪の香り]より
・徹は、ふいに陽子を誰の目にもふれさせたくないと思った。『氷点』[雪の香り]より
・啓造が教会の門に近づいた時、ふいにうしろから肩をたたかれた。『氷点』[階段]より
・陽子はふいに孤独をかんじた。『氷点』[堤防]より
・顔は定かには見えないが、啓造はふいに夏枝がいとしいと思った。『氷点』[堤防]より
・ふいに空から黒い小石がひとつ落ちてきた。『氷点』[堤防]より
・と、いおうと楽しみにしていた徹は、ふいに口の中に何かを押しこまれたような感じがした。『氷点』[ピアノ]より
・しかし、札幌の喫茶店で、ふいに「失礼します」と中座した時の北原を、夏枝は決して忘れてはいなかった。『氷点』[ピアノ]より
・長年の間に、生理的といってもいいほどの陽子への憎しみに、ふいに火がついたような思いだった。『氷点』[とびら]より
・夏枝はふいに、ルリ子が殺された時も、死なずに生きてきた自分を思った。『氷点』[とびら]より
・「……何をかんちがいなさってか、札幌の喫茶店でふいに席を立って……。……」『氷点』[とびら]より
ふがふが
・「……月の経った中絶児は膿盆にのっかってフガフガとつぶやくように泣いてますわ。……」『氷点』[チョコレート]より
ふさふさ
・赤ん坊らしくない濃い眉と、ふさふさとした髪の毛が、啓造にはへんに不気味であった。『氷点』[九月の風]より
・「いや、おれはこの子の、髪の毛のふさふさしているところや眉毛のこいところ、泣かないところが、いやなんだ」『氷点』[どろぐつ]より
ぶすり
・「……髪ふり乱してさわぎ立てるか、ものもいわずにブスリとやるか。……」『氷点』[ゆらぎ]より
ふっ
・そのような自分を意識しながら、旅行中の夫、啓造のやや神経質だが優しい目を、ふと思い出していた。『氷点』[敵]より
・啓造はふと、いつもとちがったものを夏枝に感じた。『氷点』[敵]より
・ふと、先程のルリ子の言葉を思い出して、夏枝はヒヤリとした。『氷点』[敵]より
・ふっとそんな思いがかすめて、啓造は立ちどまった。『氷点』[誘拐]より
・その時、啓造は、透きとおるような白いルリ子の手に、ふと不幸なものを感じたのだった。『氷点』[ルリ子の死]より
・夏枝がふっと啓造をみあげた。『氷点』[西日]より
・しかしふと啓造はおもしろいことに気づいた。『氷点』[ゆらぎ]より
・啓造はふっと、由香子からきいた村井の言葉を思い出した。『氷点』[ゆらぎ]より
・啓造は煙草に火をつけながら、ふっと涙ぐむ思いだった。『氷点』[どろぐつ]より
・夏枝はテラスの窓ごしに、みずうみをながめながら、ふっと四、五年前のことを思い出した。『氷点』[みずうみ]より
・ふっと夏枝は、日記から視線をそらして、考える目になった。『氷点』[激流]より
・辰子の顔が、ふっとかげった。『氷点』[橋]より
・ふっと「殺人未遂」という、よく新聞記事に見る文字が大きく迫ってくるようであった。『氷点』[橋]より
・夏枝はふっとそんなことを思った。『氷点』[歩調]より
・ふっと、村井の表情がかげった。『氷点』[歩調]より
・ふっとそう思った。『氷点』[台風]より
・ふっと気づくと、夜光虫が模様のように、青く光って揺れていた。『氷点』[台風]より
・啓造は、ふっと涙ぐんだ。『氷点』[台風]より
・飛ぶというよりも、むしろ漂うような、はかなげな風情があって、人々は寒さを迎える前のきびしい構えが、ふっと崩されたような優しい心持になるのであった。『氷点』[雪虫]より
・啓造はふっと、今年の春死んだ前川正を思い出した。『氷点』[雪虫]より
・ふっと、洞爺丸で会った宣教師が思い出された。『氷点』[雪虫]より
・無事な日が続けば続くほど、啓造はふっと不安におそわれることがあった。『氷点』[行くえ]より
・厄介払いをしたような、さっぱりした気持が、ふっとかげった。『氷点』[行くえ]より
・池にうかんだ沢山のボートをながめながら、啓造はふっと由香子があわれになっていた。『氷点』[行くえ]より
・夏枝との夜、村井に凌辱されている由香子の姿態が、ふっと啓造の目に浮かぶこともあった。『氷点』[冬の日]より
・ふとみると、十メートルほど前を村井が歩いて行く。『氷点』[うしろ姿]より
・村井はふっと冷笑を口もとに浮かべた。『氷点』[うしろ姿]より
・ふと目をあけると、いつのまにか陽子は小ぎれいな床の間のある部屋に、ねかされていた。『氷点』[大吹雪]より
・陽子はふっと涙ぐんだ。『氷点』[大吹雪]より
・夏枝はふっとほおをあからめた。『氷点』[淵]より
・ふっと、陽子は小学校一年生の時に夏枝に首をしめられたことを思いだした。『氷点』[答辞]より
・時々ふっと熱っぽい徹の視線にぶつかって、陽子はかすかな不安をかんじた。『氷点』[千島から松]より
・夏枝はふっと表情をこわばらせたが、すぐにさりげなく、……『氷点』[千島から松]より
・ふと窓の下をみると思いがけなく陽子が庭の草むしりをしている。『氷点』[千島から松]より
・自分の考えの中にひたっていた啓造は、ふと気づいて陽子をみると、陽子の輝く目が啓造をみあげていた。『氷点』[赤い花]より
・という言葉を啓造はふっと思いだした。『氷点』[赤い花]より
・それが小学生の男の子のようで陽子はふっと笑った。『氷点』[雪の香り]より
・北原はふっと視線をはずした。『氷点』[雪の香り]より
・ふっと北原の顔を思い浮かべた。『氷点』[雪の香り]より
・ふと啓造は辰子の家からみた教会を思いだした。『氷点』[階段]より
・ふと、茶だんすの上をみると、便箋が折りたたんである。『氷点』[ピアノ]より
・「……若い時は、ふっと思いついて、そんなことをすることがあるよ」『氷点』[ピアノ]より
・ふと徹のことを思いだした。『氷点』[とびら]より
・「……ふっと誘われるように死ぬことだってありそうだな」『氷点』[とびら]より
・夏枝はふっと息ぐるしいような圧迫感をかんじた。『氷点』[とびら]より
ふっくら
・ほおからあごにかけての線が、ふっくらと、しかも引きしまっているのが、いかにも若々しかった。『氷点』[とびら]より
ぶつぶつ
・食事をしながら、啓造は胸の中でブツブツ文句をいっていた。『氷点』[歩調]より
ふらふら
・夏枝はふらふらと歩き出した。『氷点』[誘拐]より
・そしてやがて放心したように、ふらふらとその場を去るのを啓造も見かけた。『氷点』[線香花火]より
・啓造はベンチから立上ると、フラフラと歩き出した。『氷点』[九月の風]より
・「……辰子さんでも男性にふらふらすることがありますかねえ」『氷点』[ゆらぎ]より
・「……わたしなんか始終男性にふらふらしっ放しよ。……」『氷点』[ゆらぎ]より
・足もとがふらふらとした。『氷点』[激流]より
・ふらふらと立ちあがった。『氷点』[台風]より
・ふらふらとよろけながら、村井は靴を脱いだ。『氷点』[行くえ]より
・なれない間はフラフラしたが、三か月たった今では大分なれてきた。『氷点』[大吹雪]より
ぶらぶら
・病院をでると、アカシヤの並木の下をぶらぶらと歩いていった。『氷点』[九月の風]より
・何ということもなく漬物をつけるのをみたり、家の前に出たりしてぶらぶらとしていた。『氷点』[雪虫]より
・久しぶりに明るい街を啓造はぶらぶらと歩いていた。『氷点』[千島から松]より
ふらり
村井は、ふらりと立上って、つぶやいた。『氷点』[行くえ]より
ふわり
・そんなことを思っている時、不意に窓の前に黄色い風船がふわりと現れた。『氷点』[ルリ子の死]より
ふわりふわり
・大きな春の雪がふわりふわりと降ってくる下で、陽子はふり返って高く手をあげた。『氷点』[答辞]より
・大きなぼたん雪が、ふわりふわりと降っていて、あたたかい晩である。『氷点』[街角]より
ふん
・「フン」『氷点』[雪虫]より
・「フン、何だ、つまらねえ。……」『氷点』[雪虫]より
・「ふん、じゃ何か。……」『氷点』[雪虫]より
・「……ふん聖人か!」『氷点』[行くえ]より
・(ふん、いい気になって、何よ、腕を組んだりして。……)『氷点』[とびら]より
・(ふん。……)『氷点』[とびら]より
ふんわり
・ふんわりと積っている雪に身を埋めて、降る雪をみるのは楽しかった。『氷点』[雪の香り]より
ぺこぺこ
・「……安心したら、途端におなかがペコペコだ」『氷点』[雪の香り]より
・「わたしも、ペコペコよ」『氷点』[雪の香り]より
へたへた
・老婆がへたへたとうつぶして泣きだした。『氷点』[台風]より
・へたへたになりそうな心を励まして、立ちあがろうとした。『氷点』[台風]より
ぺたぺた
・しかし雪虫は他愛なくペタペタと死んだ。『氷点』[雪虫]より
ぺたり
・船でかぶった風呂敷がぺたりと吸いついていた。『氷点』[台風]より
ぺちゃくちゃ
・「女の子なんか、小さい時からペチャクチャと、人の陰口をいうために生まれてきたようなのが多いじゃない?……」『氷点』[橋]より
べったり
・泥が手にべったりとついた。『氷点』[どろぐつ]より
・何となく夏枝が北原のそばにべったりと座って話しているような気がする。『氷点』[千島から松]より
茫茫(ぼうぼう)
・下草がぼうぼうと長けて、林の中はうす暗かった。『氷点』[誘拐]より
ぽかん
・その期待がはずれて啓造は一瞬ポカンとした。『氷点』[ルリ子の死]より
・なぐられた徹はおどろいてポカンと啓造を見あげた。『氷点』[みずうみ]より
・ぽかんとあいた口から、虫歯が一本のぞいていた。『氷点』[大吹雪]より
ぽたぽた
・ペダルを力の限りに踏みながら、ポタポタと涙をこぼしていた。『氷点』[白い服]より
ほっ
・辰子の言葉に啓造はほっとした。『氷点』[ゆらぎ]より
・啓造はほっとした。『氷点』[どろぐつ]より
・夏枝は内心ほっとした。『氷点』[橋]より
・村井の結婚が決ったと聞いた時、夏枝は淋しくもあったが、何とはなしにほっとした思いであった。『氷点』[行くえ]より
・啓造はほっとした。『氷点』[行くえ]より
・広々と雪をはねた辰子の家の前にきた時、陽子はほっとした。『氷点』[冬の日]より
・村井を少々もてあましていた啓造は、ほっとして辰子を迎えた。『氷点』[うしろ姿]より
・啓造はほっとした。『氷点』[うしろ姿]より
・徹はそういってほっとした。『氷点』[川]より
・と、いくぶんほっとした。『氷点』[雪の香り]より
・ほっとしたように啓造がいった。『氷点』[階段]より
・そういうと啓造はほっとした。『氷点』[階段]より
・徹はほっとした。『氷点』[堤防]より
・啓造はほっとした。『氷点』[堤防]より
・夏枝もこの家を出て行くということさえしなかったと、啓造は今更のようにほっとした。『氷点』[堤防]より
・夏枝はほっとした。『氷点』[ピアノ]より
・夏枝の言葉に陽子はほっとした。『氷点』[とびら]より
・ほっとしたように北原がいった。『氷点』[とびら]より
ぼっ
・闇になれた目に、白いものが二、三メートル先にボッとうつった。『氷点』[台風]より
・脂がしたたり落ちて、時々ぼっと火が小さく上る。『氷点』[千島から松]より
ぽっ
・ぽっと頬をあからめて立ち上った姿がなまめいた。『氷点』[敵]より
ぽっかり
・啓造はいま、自分の心の底に暗い洞窟がぽっかりと口をあけているような恐ろしさを感じた。『氷点』[雨のあと]より
ほっそり
・ほっそりとした首すじから、けずりとったようにまっすぐな、後頭部の形までがよく似ていた。『氷点』[九月の風]より
ぽつり
・夏枝は、啓造のそばにきてすわると、ぽつりといった。『氷点』[線香花火]より
・とポツリといった。『氷点』[みずうみ]より
・北原がぽつりといった。『氷点』[千島から松]より
ほつりほつり
・「……相変らずホツリホツリとくってやがる」『氷点』[チョコレート]より
ぽつんぽつん
・しかし、ポツンポツンと家が建っているので、誤たずに歩くことができた。『氷点』[大吹雪]より
ぼりぼり
・屈託げな啓造をみて、高木が首筋をボリボリとかきながらたずねた。『氷点』[回転椅子]より
ぽりぽり
・高木は、頭をポリポリとかいた。『氷点』[雪虫]より
ぽん
・ポンとゴムまりのように飛びあがって、陽子はもうかけだしていた。『氷点』[みずうみ]より
ぽんぽん
・などと辰子にポンポンいわれようものなら、ほめられたように、喜んだりはにかんだりする連中で、他愛がない。『氷点』[橋]より
・辰子がぽんぽんといった。『氷点』[千島から松]より
ぼんやり
・いちいの生垣の傍に先ほど次子といっしょにルリ子を探しに出た徹がぼんやりと立っていた。『氷点』[誘拐]より
・寝椅子の村井に目をやると、ぼんやりと煙草を吸っている顔が、へんに淫蕩な不健康な感じであった。『氷点』[誘拐]より
・啓造はぼんやりと、今自分は夢を見ているんだなと思った。『氷点』[ルリ子の死]より
・にわかに頭脳が働きを止めたかのように、ぼんやりとしていた。『氷点』[ルリ子の死]より
・ぼんやりと見上げた空に、白い雲がゆっくりと流れていた。『氷点』[ルリ子の死]より
・松田がルリ子をそっと川原にねかせるのも、夏枝を村井とだれかが抱えて連れ去るのも、ぼんやりとただ見ているだけであった。『氷点』[ルリ子の死]より
・啓造は受話器を耳にあてたまま、ぼんやりと立っていた。『氷点』[ルリ子の死]より
・佐石はぼんやりと、どこかを見ているようでうなだれてもいなかった。『氷点』[灯影]より
・夏枝は一人縁側にぼんやりとしていた。『氷点』[線香花火]より
・食事の支度を終えて茶の間にもどると、陽子がのどに手をやって、ぼんやりとすわっていた。『氷点』[激流]より
・仕事が終わっても、すぐに帰る気にもなれず、院長室でぼんやりと煙草を手にしていた。『氷点』[青い炎]より
・舞台の陽子たちが、ていねいにおじぎをしている姿を、徹はぼんやりとながめていた。『氷点』[白い服]より
・村井は虚無的な表情で、ぼんやりと煙草の煙を目で追っていた。『氷点』[歩調]より
・啓造は、みるともなしに折り紙をしている陽子の手もとを、ぼんやりとみていた。『氷点』[雪虫]より
・村井は、ぼんやりとウイスキーのグラスを手にしていた。『氷点』[雪虫]より
・村井は話し終ると、ぼんやり遠くをみる目になった。『氷点』[行くえ]より
・ぼんやりしている村井に啓造はいった。『氷点』[うしろ姿]より
・陽子はぼんやりと窓の外をながめていたが、疲れてベンチに横になった。『氷点』[大吹雪]より
・辰子は窓の方をぼんやりとながめている。『氷点』[千島から松]より
・復職が決定しても、退院の日が決っても、何となく浮かない顔で、ぼんやりとしているようであった。『氷点』[赤い花]より
・「陽子、何をぼんやりしているの」『氷点』[堤防]より
・部屋の中がぼんやり見えている。『氷点』[堤防]より
・茶の間に行くと、徹はスーツケースに手をかけたまま、ぼんやりとすわっていた。『氷点』[ピアノ]より
まじまじ
・あきれた、というように、高木はまじまじと啓造の顔をみかえした。『氷点』[チョコレート]より
・セーター姿の辰子をみると、びっくりしてまじまじとみつめていた。『氷点』[ゆらぎ]より
・啓造は、ベッドに近よって、まじまじと陽子をみつめた。『氷点』[どろぐつ]より
・夏枝は、まじまじと鏡の中の陽子をみつめた。『氷点』[激流]より
・茶色のセーターを着た高校の教師の市川が、陽子をまじまじとみて、……『氷点』[橋]より
・啓造の問いに、由香子はまじまじと啓造をみつめた。『氷点』[青い炎]より
・主人はあきれて、まじまじと陽子の顔をみた。『氷点』[大吹雪]より
みしみし
・廊下がミシッミシッと音を立てていた。『氷点』[台風]より
みるみる
・青白かった顔が、みるみる充血してあからんだ。『氷点』[激流]より
・みるみるうちにくるぶしまで水がきた。『氷点』[台風]より
・その目に、さっと涙が走ったかと思うと、みるみる涙は盛りあがった。『氷点』[行くえ]より
・泣きはらした夏枝の目に、みるみるうちにあらたな涙が盛りあがった。『氷点』[淵]より
・だが徹の顔はみるみる紅潮した。『氷点』[淵]より
・外へ出るとたちまち、まつ毛が粘り、眉も前髪も吐く息も凍りついて、みるみる白くなった。『氷点』[雪の香り]より
・みるみるうちに北原の皿は空になった。『氷点』[雪の香り]より
・北原の言葉に、陽子はみるみるうちに目に涙をいっぱいためた。『氷点』[ピアノ]より
むしゃむしゃ
・「……むしゃむしゃ食べないで、ちょっと舌にのせるの。……」『氷点』[ゆらぎ]より
むすっ
・徹はむすっと唇をかんだ。『氷点』[つぶて]より
むっ
・啓造はむっとしたまま、夏枝をみつめた。『氷点』[どろぐつ]より
・啓造はムッとしたまま、茶の間にはいった。『氷点』[歩調]より
・読んで啓造はムッとした。『氷点』[千島から松]より
むっくり
・啓造はむっくりと床の上に起きあがった。『氷点』[つぶて]より
むっちり
・夏枝は啓造のくびに、その白いむっちりした両腕をからませて彼の胸に顔をうずめた。『氷点』[敵]より
むっつり
・むっつりと、泥だらけの重い長ぐつをぬいだ。『氷点』[どろぐつ]より
・徹はむっつりと部屋を出て行った。『氷点』[白い服]より
・陽子が徹をなぐさめるようにして話しかけても、徹はむっつりとおしだまっていた。『氷点』[白い服]より
・徹は再びむっつりとして何か考えていた。『氷点』[白い服]より
・北原はむっつりとだまりこんだ。『氷点』[雪の香り]より
むらむら
・夏枝の見えすいた嘘に怒りと妬心がむらむらともたげてきた。『氷点』[誘拐]より
・という夏枝の声に、啓造はむらむらとした。『氷点』[どろぐつ]より
・啓造の言葉に、夏枝はむらむらとした。『氷点』[橋]より
めそめそ
・しかしめそめそするのは、きらいだった。『氷点』[冬の日]より
めちゃくちゃ
・「……夏枝さんは何も知らずにメチャクチャにかわいがるぞ。……」『氷点』[回転椅子]より
めっきり
・それは、徹がめっきり無口になったことだ。『氷点』[淵]より
めらめら
・北原の手紙はめらめらと他愛なく、陽炎のように透明な炎となって燃えてしまった。『氷点』[写真]より
もそもそ
・ピョコンとおじぎをすると、その子はもものあたりをズボンの上から、もそもそとかいた。『氷点』[白い服]より
もやっ
・一瞬、もやっと暖かい空気が流れた。『氷点』[うしろ姿]より
もりもり
・「……村井は自然気胸で、あぶなくステっちゃう(死ぬ)ところだったが、その後もりもり元気になってきたようですワ」『氷点』[雪けむり]より
やんわり
・と、やんわり受けとめて、……『氷点』[冬の日]より
ゆっくり
・だが彼は、ゆっくりと時間をかけて診察した。『氷点』[敵]より
・ぼんやりと見上げた空に、白い雲がゆっくりと流れていた。『氷点』[ルリ子の死]より
・だからそのような心労の多い日々のなかで、啓造はゆっくりとルリ子を抱くということもなかったのである。『氷点』[ルリ子の死]より
・由香子は、ゆるいウェーブの髪を長く背にたらして、ゆっくりと歩く娘だった。『氷点』[西日]より
・啓造はだまって徹の肩に手をかけると、ルリ子の死んでいた川原のあたりに、ゆっくりと歩いて行った。『氷点』[線香花火]より
・バーバリー・コートのポケットに両手をつっこんで啓造はゆっくりと歩いた。『氷点』[九月の風]より
・ゆっくりと歩く馬のひづめの音がのどかにひびいた。『氷点』[ゆらぎ]より
・弾んだ声に送られて家を出ると、啓造は昨夜ふった初雪の上をゆっくりと歩いた。『氷点』[どろぐつ]より
・まろやかなももの上を石ケンの泡がゆっくりと流れていた。『氷点』[みずうみ]より
・夏枝は怒りの表情を気づかれぬように、啓造のぬぎすてたくつを、ゆっくりとそろえた。『氷点』[橋]より
・そう思って、こんどはゆっくりとルリ子のことを考えてみようと決心をした。『氷点』[よそおい]より
・村井は夏枝の歩調に合わせてゆっくりと歩いた。『氷点』[歩調]より
・「……いろいろと、ゆっくり聞いていただきたいこともあるんです」『氷点』[歩調]より
・「……一か月ぐらいゆっくり内地に行くから、病院の誰かがたずねてきたら、適当にいっておいてくれ、とこういって出たそうですがね」『氷点』[行くえ]より
・村井はにらむように、啓造を見つめ、つづいて夏枝をゆっくりとみた。『氷点』[行くえ]より
・「……風がおさまってから、小父さんがゆっくり配達するからな」『氷点』[大吹雪]より
・「……とにかく風が静まるまでゆっくり休んで行きなさい。……」『氷点』[大吹雪]より
・「……ゆっくりねむったらいいよ」『氷点』[大吹雪]より
・陽子がゆっくりと奉書紙をもと通りにたたむのが見えたのである。『氷点』[答辞]より
・今日はゆっくり夕食を共にしながら話し合ってみたいと思っていた。『氷点』[千島から松]より
・林の中でゆっくり読むつもりらしい。『氷点』[千島から松]より
・「層雲峡まで行ったら、ゆっくり温泉に入って泊ってくるよ。……」『氷点』[川]より
・などと、一枚ごとにゆっくりとながめているので、徹のよりわけるのは遅かった。『氷点』[雪の香り]より
・もっとゆっくり話をしていたいような気がした。『氷点』[雪の香り]より
・下駄で走るのは無理だと、徹はゆっくりと歩きだした。『氷点』[堤防]より
・このごろ啓造は目がさめると、床の中にゆっくりしていることができなくなった。『氷点』[堤防]より
・立ちあがると、陽子は林に沿った小道をゆっくりと歩いて行った。『氷点』[堤防]より
・しかし、仲のよい何人かの友人は進学組で、廊下を歩く時も単語カードを見ながら歩いていて、ゆっくり話し合える友はいなかった。『氷点』[街角]より
ゆったり
・ゆったりとした気分で、ルリ子を抱きあげたことが果してあったろうかと啓造は思い返していた。『氷点』[ルリ子の死]より
・脂の焼けた煙がゆったりとたなびいて、部屋の中にただよっていた。『氷点』[千島から松]より
ゆらゆら
・ゴム風船は白い糸を引いてゆらゆらと揺れながら、風に吹かれて窓をよぎって流れて行った。『氷点』[ルリ子の死]より
・「……二階は風でゆらゆらだよ。……」『氷点』[台風]より
・体がゆらゆらとゆれるような思いであった。『氷点』[堤防]より
ゆらり
・陽子が北原の腕の中で、ゆらりとゆれた。『氷点』[とびら]より
よちよち
・向うからヨチヨチと歩いてくる女の子がある。『氷点』[堤防]より
よろよろ
・指さして夏枝はよろよろと立ちあがった。『氷点』[ルリ子の死]より
・よろよろと自転車を押して人目を逃れるように歩道に入って行った。『氷点』[白い服]より
わーっ
・「おいも? ワーッ、おもしろい」『氷点』[線香花火]より
・「ワー、赤い西瓜!」『氷点』[線香花火]より
・「ワー、うれしい」『氷点』[線香花火]より
・「ウワーうれしい。……」『氷点』[ゆらぎ]より
わっ
・夏枝の言葉に徹はわっと泣きだした。『氷点』[みずうみ]より
・そして息を引くように、くくっとのどを鳴らしたかと思うと、ワッと泣きだした。『氷点』[激流]より
・観客がワッと笑い声をあげた。『氷点』[白い服]より
・抱きしめられて、うれしいのか悲しいのか、自分でもわからぬ涙をこらえきれずに、陽子はワッと声をあげて泣きながら夏枝にしがみついた。『氷点』[大吹雪]より
・ワッと喚声が上った。『氷点』[川]より
コメント
私は「オノマトペ」という言葉自体を文学館のサイトで初めて知りました。
今回紹介された「くっきりと」を別の言葉に置き換えたら、印象が違ってくるんだと思います。つくづく、作家さんの語彙の豊富さには驚くばかりです。
マイさん、コメントありがとうございます!
そうですね、おっしゃるように、別の言葉で置き換えると、まったく印象が違いますよね。
その文章で、どんな単語をどんな順番で置くのか、作家の腕の見せ所なのでしょうね。
さすが、#綾活 ガチ勢の考察は質も量も素晴らしいです…!
わたしが三浦綾子さんの作品を読んですごく印象に残っているオノマトペは「かっきり」です(・ω・)
他のものはわりと広く一般的に普及しているというか、自分で使ったりどこかで聞いたことがあったりするものですが、「かっきり」は初耳でした( ° ω ° )
三浦作品で二重まぶたの大きな瞳(そしてもれなく美人さん)の表現をされるときに多用されているイメージです( ・`ω・´) 奥深いですね〜!!
ゑむゑむ@バーズさん、ありがとうございます!
「かっきり」、そうですねえ。私も同じで、三浦綾子作品で初めて知ったような気がします。
まだ登場していませんが、「きりっ」も、多いような気がします(これも美男美女系)。
『氷点』のまだ半分にも至っていないのですが、それでもこれだけたくさん登場するところを見ると、他の作品にとりかかるのも楽しみです。
102番「むらむら」って、こう使われていたんですね!
「むらむら」は、どうもイヤらしいときに使うような表現のように思えていて、自分だったら102番のような場合は「めらめら(メラメラ)」を使っちゃうかなぁ。
そうですよね、「むらむら」はおっしゃるように、いやらしいときに使われるイメージがありますよね。辞典を見てみると、なるほど、「湧き起こる」ようなイメージに使うのだそうで、まさしく、三浦綾子の使い方が本来の姿だったんだなあと勉強になりました。