三浦綾子作品で使われているオノマトペ“あわあわ”

難波真実

約1年前(2023年12月)から、三浦綾子作品(小説、童話、戯曲)におけるオノマトペの使用例をまとめているのですが、ようやく18作の収録作業が終わり、その集計中です。
再話作品である『わたしたちのイエスさま』を含めると、合計58作ありますので、ようやく3分の1まで来たなというところです。

『この重きバトンを』までの15作品で、見出し語総数は625語、合計使用頻度総数は5,014回です。
その中から、印象に残ったオノマトペ語句をいくつかご紹介したいと思います。
今回はその1語目です。

午後の日ざしが、まだ三時だというのに、あわあわと夕日のように黄色い。

三浦綾子『裁きの家』[二十]

今のところ(収録している18作品で)、この“あわあわ”という語句が使われているのは、この『裁きの家』だけです。
私のイメージでは、あわあわというのは、慌てているときのさまなのですが、ここでは情景を描くことに使われていて、私は知らなかった使い方でした。
見出し語句のベースにさせていただいている、小学館の『日本語オノマトペ辞典』(2007)にも、このあわあわは掲載されておらず、あまり一般的に認知されていない語句なのではないかと思います。

おそらく、漢字であらわすなら、“淡々”ということではないかなあと思うのですが、どうでしょうかね。淡い陽光をイメージしたのかなと。くっきりとした太陽ではなく、沈みゆく太陽のように輪郭が多少ぼやけるといいますか、そういうあわあわですね。
あるいは、「粟(あわ)」? もこもこと実った粟穂が日に照らされて輝いている様子とも受け取れますが。
時期は10月。北海道の秋は、日が暮れるのが早いですから、穏やかな明るい午後の日差しを浴びる時間帯なのに、太陽の姿はそうではないという、少しアンバランスな情景を描くことで、登場人物のアンニュイな雰囲気も重ねたのかもしれません。
今のところ、真相は分かりません。

この場面の場所は、札幌の大通公園、大きな噴水のそばです。
物語の主要登場人物の一人である弘二と、関子が話している場面で、この会話の終盤に、この物語のちょっとした起伏の1つが描かれます。
二人は中学生。
中学生ならではの気だるい感じが漂っていて、その会話の入口が、この“あわあわ”であり、その気だるさを剥がそうとするかのように、二人はコトを起こそうとするのですね。
そして、その場面が終わり、次の章は大人の会話からスタートするのですが、その冒頭で描かれるのが、真っ赤な紅葉。
同じ秋なのに、
大通公園で気だるさを分かち合った二人とは対象的に、くっきりと、ある意味では攻撃的なニュアンスを含む会話が描かれる背景が、真っ赤。
なんだか面白いですねえ。
では、また。

難波真実

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コメント

  1. mai.kaguraoka より:

    こんばんは、神楽岡マイです。
    「あわあわ」という言葉を驚いているさま以外で見たのは初めてです。
    驚いているさまは「あわあわ」「あわわ」とかそんな語句ですよね。
    「あわあわ」については、難波さんが書かれていたとおり
    「淡々と」という表現だとしっくりきますけど、
    あえてひらがな表記にした意味がきっとあるんでしょうね。
    綾子さんと光世さんの間でどんな会話がされていたのか、気になります。

    • 難波 真実 より:

      マイさん、コメントありがとうございます!
      おっしゃるとおり、あえてひらがなにした意味があるのだと思います。
      三浦夫妻が、ここをどのように決めたのか、気になりますね、ほんと。

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