三浦綾子作品で使われているオノマトペ“かちかち”

難波真実

印象に残ったオノマトペ語句の2語目です。

クメは入歯をカチカチ音させながら言った。

三浦綾子『裁きの家』[三十六]

この語句も、今のところ(収録している18作品で)、『裁きの家』だけです。

昔話に「かちかち山」というのがありますが、まさにそのカチカチですね。
硬いもの同士を叩いたりして音が鳴るさまをあらわします。

それが、入れ歯であらわすのがなんだかおもしろい。

クメというのは主要登場人物で、この物語の鍵を握る一人です。
博史(兄)と謙介(弟)兄弟の母親ですが、物語の当初は博史宅で同居しており、博史の妻がクメを謙介宅に上手いこと押し付けてしまうという流れがあります。この、博史の妻(滝江)というのが曲者なわけですが、体よく追いやられたクメは、寂しさと怒りとやるせなさがごっちゃになって、両方の家庭を引っ掻き回すことになるのです。
そのクメの、年齢を重ねた感じと、その年齢に負けじと両家を引っ掻き回す精力のようなものが、この“カチカチ”に込められているような感じがして、印象に残りました。
実はもう1箇所、入れ歯の音をオノマトペで表現しているところがあります。

クメは義歯を口の中でカチャカチャと音をさせた。

三浦綾子『裁きの家』[十三]

こちらの場面の方が先に出てきます。
ここでは、「入れ歯」は「義歯」と記されていて、オノマトペも「カチャカチャ」なんですね。
どちらかというと、カチャカチャのほうがイメージ通りと言いますか、一般的な音かもしれません。
それを、物語が進んでから、「カチカチ」に変えて、もう一度使うというところに、何か意図があったのでしょうか。
ただ、どちらの場面も、自分を追いやった滝江の悪口を言うという共通項があり、興味深いです。

それにしても、入れ歯の音を使うって、すごいなあ。
私には、逆立ちしても思いつきません。
では、また。

難波真実

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