印象に残ったオノマトペ語句の4語目です。
「……博史は、あなたと兄弟でも、少し神経がチカチカしてるわ。……」
三浦綾子『裁きの家』[十五]
この語句も、今のところ(収録している18作品で)、『裁きの家』だけです。
「チカチカ」は、私のイメージでは、「目がちかちかする」というふうに、目のことをあらわすときに使いますね。
神経がちかちかするというのは、聞き馴染みがありません。なので、印象に残りました。
とはいえ、少し近い語句で、目のことを描いています。
そう言ったわたしの言葉に、主人はちかっと目を光らせて言いました。
三浦綾子『どす黝き流れの中より』(四)
「……ちかっと光る目でね。……」
三浦綾子『裁きの家』[四十一]
辰子の目がチカリと光った。
三浦綾子『氷点』[うしろ姿]
輝子の目がちかりと光った。
三浦綾子『ひつじが丘』
いずれも、目が光るという表現なんですよね。
これもまた、私であればなかなか思いつかない使い方です。
こう、例えば、派手で目に眩しい色合いのものを見たときに、ちかちかするという言い方をすることはあるのですが、上記の4例では、見え方ではなく、目そのもののさまをあらわしていますよね。
そして、冒頭の例では、目ではなく、神経の細かさをあらわしています。
ここに出ている博史は、2語目の“かちかち”の記事でご紹介したように、謙介の兄で、大学の教授です。博史の妻である滝江は、そんな夫のことを多少馬鹿にしている感じで、それが冒頭のセリフになってあらわれているわけですが、このセリフは弟の謙介との会話です。滝江は、謙介に思わせぶりな態度をとって、謙介夫妻を引っ掻き回します。ほんとにまあ、ややこしい人です。
自分の夫は神経がチカチカして休まらないが、弟のあなたといると心が休まるの、なんてことを言って、気を引こうとするのですよ。謙介と滝江の関係性がどのように変化していくのか、気になる方は、ぜひこの物語を読んでみてください。
今夜も冷えています。
では、また。
難波真実
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