三浦綾子作品で使われているオノマトペ“がらんがらん”

難波真実

印象に残ったオノマトペ語句の11語目です。

「……ホームでガランガランと、手からころげ落ちたものがあるんだ。……」

三浦綾子『道ありき』[三八]

この語句は、今のところ(収録している18作品で)、『道ありき』だけで使われています。

これはですねえ、なんとも切ない場面なんですよ。
『道ありき』は自伝小説で、札幌での入院生活に別れを告げて、旭川に戻るときの1シーンを回想したものです。
このセリフは、三浦綾子さんの弟の鉄夫さんが発したもので、綾子さんの帰宅に付き添ってくださったときのことなんですよね。
退院するとはいえ、快癒してのものではなく、病状としては変わらないのですが、その少し前に西村久蔵氏が亡くなったこともあり、心に穴が空いたことが大きかったようですね。

どんなふうに切ないのか、ぜひ『道ありき』を読んでいただければと思いますが、
ここで「手からころげ落ちた」のは、便器のふたでした。
長い入院生活でお世話になった物の1つが、便器だったのでしょう。
両手に荷物を抱えた鉄夫さんが、こぼれ落ちて大きな音を立てた便器を見て苦笑いする様子が目に浮かんできます。そしてそれを、「恥ずかしい思いをさせて、すまない」と申し訳無さそうにしている綾子さんの姿も。
普通に腰掛けて長時間揺れていられない病状の綾子さんは、座席を2つ確保してもらって、そこに板を渡して、ギプスベッドで臥たまま列車で帰路につきました。
臥たままなので、外の景色を見ることができません。
鉄夫さんが外の様子を教えてくれて、綾子さんはそれを聞きながら、手鏡で外を写して見ていたそうです。

「がらんがらん」は、鐘の音のようなイメージですが、寂しくも少しうれしい帰旭の様子をリアルに描いた語句として、驚きを届けてくれますね。
ちなみに、同じ場面で、発車のオルゴールが高らかに響いたとの描写があるのです。
その音色を、例えば「リンリン」だとか「キン、コロン」だとかのオノマトペであらわすこともできたのでしょうが、それはせず、便器のふたがころげ落ちたほうにオノマトペを使った、そういうところに文学のおもしろさがあるように思います。

寒い日が続くので、夕飯はお鍋にしようとスーパーで材料を選んでいましたが、
白菜もニラも高くて手が出せず、もやしをメインにしました。
帰りに別のお店に寄ると、お手頃なニラとしいたけがあったので、嬉しくなりました。
では、また。

難波真実

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