三浦綾子作品で使われているオノマトペ“さやさや”

難波真実

印象に残ったオノマトペ語句の21語目です。

丈高くなったとうきびの葉が風にさやさやと音を立てている。

三浦綾子『氷点』[誘拐]

この語句は、今のところ(収録している18作品で)、『氷点』『カッコウの鳴く丘』『積木の箱』の3作品で使われています。

『氷点』で「さやさや」が使われているのは、2回。どちらも“とうきび”。
『カッコウの鳴く丘』『積木の箱』は計3回で、いずれも“熊笹(あるいは笹)”。

かたわらの熊笹が、風にさやさやと鳴った。

三浦綾子『積木の箱』[坂道]

ザ・北海道ですね。
とうきび、という呼称は、北日本だけなのでしょうか?
どのあたりが範囲なのでしょうね。
私は関西の兵庫出身なので、とうきびというと、いわゆるサトウキビ(砂糖黍)のことをイメージします。北海道に来たばかりの頃は、炉端で売られている焼きとうもろこしのところに、「とうきび」というのぼりが立っていると、初めは今ひとつ意味が分かりませんでした。
「ああ、とうもろこしのことか。なんで、とうもろこしって書かないんだろう?」と不思議に思ったことを鮮明に覚えています。
今はもう、通じるのでしょうし、かえってそれがローカル色になってよいのだろうなあと納得していますが、20年以上前の私には謎の1つでした。笑

それにしても、「さやさや」って、なんだか良い響きですね。
やさしげで、くすぐったくって、涼やかで。
サ行の涼しさに、「や」がくっつくことでやさしさがプラスになっているのでしょうか。

そしてそれを、とうきびと熊笹に使う、という。
まさにドンピシャですよね。
「さやさや」と思い描けば描くほど、口にしてみればみるほど、とうきびと熊笹の葉にしか出せない音なんじゃないかと思うぐらい、ぴったり。
ま、ほかにも「さやさや」と鳴るものはいくらでもあるのでしょうけれど、文章で読むと、これ以外にないように思える、それが文学作品の凄さですね。

宮沢賢治もオノマトペをたくさん使った人でしたが、まさに、それ以外にない、という使い方でしたものね。作家って、すごいなあと思います。

『氷点』の「さやさや」は、どちらもとうきびだと申し上げましたが、そのどちらにも共通しているのが、「丈高くなった(とうきび)」ということです。
これね、まさに北海道だと思いました。
別に、北海道ではなくてもとうもろこしは栽培されていますので、ん?と思われるかもしれませんが、それでもやっぱり、とうもろこしとの距離(関係性?)が近いんです。
兵庫(の、少し郊外)でいえば、里芋とか、さやえんどうぐらいの近さ。
トマト、きゅうり、ピーマン、なす、というのは、全国共通で身近ですよね。
芋は、本州はさつまいも、北海道では馬鈴薯(じゃがいも)という感じでしょうか。
近頃は、北海道でもさつまいもが栽培されるようになりましたが。

里芋とかさやえんどうぐらいに、どこにでもある。
そして、家庭菜園のみならず、大きな区画でも、とうもろこしは栽培されていて、
(食用のものだけでなく、飼料用のとうもろこしもたくさん栽培されているので余計に)
非常に身近。
それもまた、いつのまにか背が高くなっているのですよ、ほんとに。
20センチとか30センチとかだったのが、あっというまに1メートルを越して、いつのまにか自分の背丈を超えるのがとうもろこし。
本州でのたけのこみたいな感じです(ま、スピードはたけのこのほうが圧倒的に早いですが)。

そのとうきびの葉が、丈高くなると、さやさやと鳴る。
まさにそうなのです。低いときには、鳴らない。
背が高くなって、葉が茂ると、隣同士の葉がこすれあってさやさやと鳴る。
これなんですよね。
とすると、初夏が終わり、あるいは夏も盛り、という季節になっていることを示せるのですよね。
北海道の短い夏、ぎらぎらと照りつける太陽と、吹く風に揺れるとうもろこし、という画をイメージすることができる、そういう語句なわけです。

他の「さやさや」は、熊笹。これもまた、北海道ですね。
熊笹の太いこと太いこと。逞しいという言葉は熊笹のためにあるかのような、そういう生い茂り方をします。
幌延(ほろのべ)のほうの湿原(『天北原野』の舞台)も、熊笹の勢いに押されている感じで、私はやきもきしていますが、本当に力強い草です。
美幌峠の道の駅では、この熊笹をお茶にして、さらにそれをソフトクリームにして売ってたりするので、それもすごいなと思いますが、この熊笹が藪で風にそよぐと、「さやさや」と鳴ります。これもまた、「さやさや」としか言いようがない、そういう鳴り方ですね。

他に使うとしたら、ススキとかでしょうかね。
何かぴったりのものがありましたら教えてください。

今日の夕飯は、丸美屋さんの力をお借りして麻婆豆腐(珍しい、鶏白湯味)。消費期限ギリギリの豆腐たちを無事にたいらげることができました。
では、また。

難波真実

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コメント

  1. em.em_birds より:

    熊笹といえば稚内、稚内といえば『天北原野』ということで、お貴乃が引き揚げ後に稚内の街を歩くシーンで、丘陵に生えた熊笹が風になびく様子があったような気がして、調べてみました( ・`ω・´)

    「浜風が吹き上げると、笹山は幾百もの小動物が立ち騒いでいるかのように、さわさわと鳴る。(『天北原野』[海の墓])」

    ここの熊笹は「さわさわ」なんですね!
    「立ち騒ぐ」とかかっているのかな。。。
    稚内は基本風が強い街なので、わたしの中でのあのあたりのイメージは「ざあっと」ぐらい激しいです。笑
    (余談:春〜秋限定ですが、稚内公園の売店にも熊笹ソフトがありますよ笑 食べたことはありません…)

    それと、笹だと「さらさら」のイメージもあります(・ω・)
    これは七夕の歌からですね笑
    にしても、「さ」のあとにつくのが「や」なのか「わ」なのか「ら」なのかでも微妙に感じが違うのですね。奥が深い!

    • 難波 真実 より:

      ゑむゑむ@バーズさん、コメントありがとうございます!
      『天北原野』の熊笹は、「さわさわ」なんですね、おもしろい!
      おっしゃるように、立ち騒いでいることが影響してそうですね。
      私の「稚内観」でも、「さやさや」ではないなあ。もっと激しい。笑
      稚内にも熊笹ソフトがあるんですか? 知らなかった!
      (春になったら見つけに行きます。食べるかどうかは別として)
      「さらさら」の笹と、熊笹は、私にとっては別物だなあ。笑
      熊笹に「さらさら」は上品すぎて似合わない(失礼)。
      ほんとに、奥が深いですね。
      2025.2.4 難波真実

  2. mai.kaguraoka より:

    「さわさわ」とまったく関係ないので申し訳ございませんが、麻婆豆腐、いまレトルト調味料でプロ仕様の麻婆豆腐の素がありますのでお試しください。感動するくらい美味しくできました。メチャクチャ辛かったですけど「本場の四川料理だなぁ!」と感じます。四川省どころか、中国にも行ったことはありませんが(笑)

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